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一体つぶれてしまうほど適当に人の靴をゴミ袋に投げ込んだのはどこの誰だと言いたくなる。
栄の勝手な事情で撤去したのだから、元の場所に戻すのも責任を持ってやって欲しい。……というのが正直なところだが、まあ、一緒に片付けというのも悪くはない。
何もなければ栄はすっかり仕事モードで会話も少ない午後を過ごしたところ、こうしてある種の「共同作業」できるのだから。
そんなことを考えると、見知らぬ男への警戒心とも嫉妬ともつかぬ感情が徐々に和らいでいくようだった。
それに——。
「確かに君は、合コンとか、若者ノリとか苦手だろうな。体育会系の部活で、どう乗り切っていたか見てみたいくらいだ」
栄の過去についてさりげなく聞き出すには絶好の機会だ。
「苦手ですけど……これでもいろんな意味で浮かないように、努力はしていたんですよ?」
「でも、ポッキーゲームは?」
「しません! 第一、そういうのって男女でするものでしょう。絶対無理だし嫌です」
何度も断って、それでも断り切れず何度か参加した合コンで、表面上は穏やかに、しかし内心は必死に品のないゲームへの参加を断っている栄の姿を想像するのはたやすい。
まあ、外向けの王子様スマイルで「俺はそういうのはちょっと」などと言われれば、周囲も無理強いできはしないのだろうが。
「確かに谷口くんは、その手のゲーム好きじゃないだろうな。やったとしてもすごく弱そうだし」
羞恥心の強い栄は、きっとすぐに動揺して自ら顔を背けてしまうだろう。そんな姿を勝手に想像して楽しくなってくる羽多野に栄は不審そうな視線を向けて、小さな声できく。
「そっちこそ、どうなんですか? ずいぶんポッキーゲームに詳しいから、きっと慣れているんでしょうね」
「ないよ」
即答するが、栄は疑わしげなままだ。
「嘘じゃないって。そういうゲームで盛り上がるような年の頃、俺が日本にいなかったの知ってるだろ」
理由を重ねると、ようやく合点がいったようにゆるく首を振る。
「ああ、そうでしたっけ」
「そうだよ」
涼しい顔でうなずく羽多野の頭に去来するのは、貧乏学生なりにたまにはクラブに繰り出したり、酔っ払った勢いできわどいゲームで遊んだ記憶。しかしもちろんそんなことは栄に言わない。羽多野はポッキーゲームをやったことはない。必要なのはその事実だけ。
ともかく明らかになったのは、ふたりともポッキーゲームは未経験であること。そして目の前にはポッキーとMIKADOがある。
長尾の突撃訪問にやきもきさせられた代償として、このシチュエーションを逆手に取るくらいは許されるのではないか?
「じゃあさ、やってみる? ポッキーゲーム」
羽多野の提案に、栄は心底意味がわからないといった様子で顔を引きつらせた。
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