(番外)ミカドゲーム

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「靴なんかどうだっていいだろ。何ならついでに全部メンテナンスに出そうか。いい機会だ」  言いながら、取り出したポッキー……いやMIKADOを一本口にした。  おそらくMIKADOを食べるのは初めてだが、子どもの頃口にしたポッキーとさして味は変わらないような気がした。 「羽多野さんって、持ち物を大事にしないですよね。そんなんじゃ、いくらいい靴を買ったところで宝の持ち腐……」  咎めながら振り返った栄は、すでにの羽多野を見て明らかにうろたえる。 「ちょっと、人がもらったもの何勝手に開封してるんですか」  本当に問題視しているのはそんなことではないのに、あえて本題から目を逸らしたくてずれた物言いをする。そんな栄の習性はわかっているし、わざと素知らぬ顔で付き合ってやることもある。ただ、今がそんな気分ではないだけで。  くわえたMIKADOをゆらゆらと揺らして見せてから、羽多野は我ながら意地の悪い笑みを浮かべ、意地の悪い言葉を口にする。 「やなんだろ? 俺が他の誰かと〈初めてのポッキーゲーム〉するの。だったらお互いポッキーゲーム童貞を今卒業するのが現実的じゃないか」 「どっ……、何言ってるんですか! それに俺は責めてなんていません」  品のない言葉選びに眉をひそめて言い返す栄だが、説得力はない。さっきの口ぶりは明らかに、羽多野の過去をうたぐり、責め立てようとしていた。  羽多野は、栄の過去については割合無頓着だ。過ぎ去った日々や終わってしまった関係に嫉妬したところで時間の無駄だと思っている。だが、彼が未だ経験していないことがあるならば——。  何であろうと相手が自分であるに越したことはない。  さて、不審に満ちた眼差しでこちらを見つめている恋人を、どうやってその気にさせようか。羽多野にとってはむしろこちらの方がポッキーゲームなどよりずっと刺激的で面白い遊びだ。 「確かにな、谷口くんがこういうゲーム嫌いっていうのはわかるよ」  思わせぶりな言葉は、見え透いた釣り針。だが、極めて短気な栄はそれを無視することができない。
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