(番外)ミカドゲーム

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 差し込む光を気にするように、栄は窓へ目をやる。昨晩に仄暗い灯りの中で抱き合っていれば、昼の光の中で痴態をさらけ出すことにはならなかった主張したいのだ。  だが、羽多野に言わせればそれは理不尽だ。だって、思わぬ来客がなければ羽多野の自制心は何の問題もなく継続するはずだったのだから。  優しくしたい気持ちと、意趣返ししてやりたい気持ち。ほとんど釣り合っていた天秤がぐらりと後者に揺れた。 「変なタイミング? 君が俺を部屋に押し込めてどこぞの男に愛嬌を振り撒いてなきゃ、紳士的な週末が続いていただろうな。煽ったのは谷口くん、君の方だ」 「煽ってなんかいないし、愛嬌なんか振り撒いていません。まるで俺が誰彼かまわず粉かけてるみたいな言い方、侮辱です」  強い言葉で反論してくるが、問題は栄にその気がないから何も起きないとは限らないこと。まだ学習が足りないのかと呆れてみせると、少し前に二人の関係に波風を立ててきた男のことを思い出したようだ。 「ジェレミーのことは悪かったって言ってるでしょう。でも長尾さんは一年も同じ職場にいる同僚です。どんな人かも知ってるし、そういう気配を感じたことはありません」  自信たっぷりなのは何よりだが、谷口栄に搭載された色恋センサーは極めて性能が悪い。それこそが根本的な問題だ。 「じゃあ君さ、俺とこうなるって思ってた?」 「全然。これっぽっちも」  栄は自信たっぷりに即答した。悩む素振りを見せるサービス精神などさらさら期待していないが、羽多野の心はさらに「優しさ」から「お仕置き」に傾いた。 「ほら。全然予感もなくて好みでもない相手とだってこうなるんだから、先のことなんかわかんないだろ」  額に置いた手のひらを頬に滑らせ、首筋を撫でて、鎖骨をくすぐってから、まだ縮こまったままの微かな突起を爪先でキュッとシャツ越しにつねりあげる。 「……っ」 「だから、他に目をやる余裕なんか生まれないように、させていただくしかないな」 「あ、待って……」  羽多野に触れられる以前なら顔をしかめるばかりだっただろう乱暴な愛撫に、栄は敏感に震える。痛みも羞恥も用量と用法さえ守ればただの媚薬。もちろんその媚薬を処方できるのは羽多野だけなのだ。
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