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「ちょっと、今は嫌だって」
ポーズとしての抵抗を封じるように首筋に口付けながら、強引な愛撫に瞬時に凝った胸先をカリカリと引っかく。
体は正直などというとまるで安っぽいAVのようだが、事実栄の言葉と体は頻繁に正反対のことを主張する。もちろん、ほとんどの場合正しいのは体の方だ。
首筋を吸い上げると、栄は喘ぎながら「駄目だって」と続ける。ドレスシャツを着たときに襟から見えるか見えないかのぎりぎり——ボタンを一番上まで留めている限りは確実に隠れることを少なくとも栄は知らない——に跡をつけることは、平時であればとても許されない。
だが、どこぞの馬の骨が恋人を口説こうとチャンスを狙っている姿をドア越しに黙って見守るという偉業を成し遂げた今この状況は、少なくとも羽多野にとって「平時」ではない。
「お仕置きしてやろうか、優しくしてやろうか迷っていたんだ」
浮き出た鎖骨を舌でなぞりながら、服越しに触れている栄の股間が硬くなるのを確かめる。
「お仕置きって、そんなことされる筋合い……っ」
息が途切れるのは、もう片側の乳首をつねられたから。最初の頃はこんな場所では感じないと言っていた栄だが、意地を張れば張るほどしつこくされることに気づいたからか、最近では胸が性感帯であることを受け入れているように見える。
「昨晩は谷口くんも痩せ我慢してたんだと思ったら可愛くて、さっきの件はなしにしてやろうかと思ったんだが。あんまりに往生際が悪いから、やっぱり意地悪したくなってきた」
「や、痩せ我慢!?」
そんなもの、していない。そう続けたかったはずのところを飲み込んだのは、これ以上「往生際の悪さ」を見せると羽多野を煽る一方だと判断したのか。それとも口を開いたままでいたらいやらしい喘ぎがこぼれるからなのか。
いずれにせよ、羽多野にはもう完全にスイッチが入ってしまった。さっきの言い訳が事実で、栄が今後円安対応のためもっと忙しくなり本格的な禁欲期間を余儀なくされるのであれば、この週末こそ最後のチャンスということになる。とても紳士ぶっている場合ではない。
「部屋に戻ってから、何してた? セックスのこと考えた?」
ぷっくりと膨らんだ乳首をクリクリと弄りながら質問すると、栄は困ったように眉をひそめる。間違えれば敏感な場所をまた強くつねられると思って躊躇しているのかもしれない。
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