1153人が本棚に入れています
本棚に追加
/700ページ
だが、この場合一番の間違いは、答えを濁すこと。「ん?」と返事を促しながら指先に込める力を微かに強くすると、意図を察した栄は首を微かに振った。縦とも横ともつかないなんとも微妙な動きだが、羽多野は「イエス」と受け止めることにする。
「谷口くんは、どういうセックスを妄想するのかな。君はひどくされると感じるから……こういう風にされるのを思い浮かべた?」
浮き出た鎖骨をカリッと噛むと、栄は小さく声をあげる。胸先に警戒を向けていたから、首筋を攻められるとは想像していなかったのだろう。
フェイントはいつだって効果的。注意が首筋に向いたところで羽多野は改めて乳首を強く摘み、シャツの摩擦を利用してねちっこくいたぶる。
「し、してない。確かにちょっと拍子抜けはしたけど……疲れてたからすぐ寝ました。あなたこそ何してたんですか」
当初と比べると、ずいぶん本音に近づいた。薄いコットンを持ち上げる突起もそろそろ食べごろ。真っ赤に色づいたそれを直接口に含みたいのが本音だが、羽多野はもう少しだけ遠回りを選ぶことにした。
「聞きたい?」
隠微な笑みで見下ろしてから、シャツを着たままの栄の胸に顔を埋める。
「あ、っ」
濡れた刺激。声は一気に甘さを増す。唾液を垂らすと水分を含んだシャツが透けて、膨らんだ朱色の乳首がくっきりと浮き上がった。
反対側も同じようにしてから、羽多野は上半身を起こして、横たわったままの栄を見下ろす。
服は上下ともしっかり着込んでいるのに、両胸の真ん中だけがいやらしく透けている。髪は乱れて、唇は濡れて、股間ははっきりと持ち上がっている自分の姿を、まだ正気を手放せていないからこそ栄ははっきりと認識することができる。そして自らの羞恥心に煽られてなおさらに体を熱くするのだ。
「こういうの嫌だって……」
引き返すことはあきらめたのか、栄は腕を持ち上げてボタンに指をかける。
服を着たまま半端に乱れた倒錯的な姿を見られるよりは、さっさと脱いでしまいたいのだという本音が透ける。だからこそ、羽多野はやんわり腕を押さえて栄の動きを制止した。
「もうちょっとだけそのまま」
下半身を押さえる膝に力を入れると、反射的に栄の動きが止まる。
最初に触れたときを除けば一度だって暴力的に押さえつけたことはないのに、「ベッドの中で敵わない」先入観は栄を縛り続けている。
逃げようと暴れた結果レスリングのようにみっともなく押さえつけられるならば不戦敗を選ぶのが栄だ。だから羞恥に顔を赤くしながらも、栄は標本箱にピン留めされた虫のように動きを止めて、羽多野は恋人の恥ずかしがる姿を存分に楽しんだ。
最初のコメントを投稿しよう!