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司令部より由良とペアになるように辞令が下ってから一週間。 舟人は連日空いた時間を見つけるたびに由良の元に通い詰めていた。 実際に瑞雲に搭乗するのはひと月半後だ。というのも内地で試験飛行をした後の最終調整が遅れているらしい。瑞雲がラバウルに着くまではそれぞれ別行動となる。 舟人が元々組んでいた九七式艦攻の操縦員と偵察員は今は別々の相手とペアを組んでいるため、地上雑務がもっぱら最近の主な仕事だ。 幸いなことに上官からの信頼も厚い舟人は、以前より時折書類の整理や軽微な月次決算処理などの手伝いをさせられている。そんな経緯があるからか搭乗割に名前の載らない今こそ好機と言わんばかりに書類の山を任されていた。 とある日の午後、司令部の事務室で黙々と作業を進めていた舟人に、書類の山に埋もれた上官が声をかけてきた。 「百目木は頭を使う仕事が苦手そうなのに、細部まで漏れなくきちんと確認するし、何より早いからなあ。偵察員の腕がからきしならこのまま内務をさせるのだがな」 「有難い申し出ですが、自分は偵察員として空に散る覚悟でラバウルに参りましたので」 「はっは、冗談だ。貴様の腕が良いことは俺の耳にも届いているさ。……なんでも今度は問題児と一緒に水偵だったか?」 挑むような目線であえて由良のことを「問題児」と呼んだ上官の目を真っ直ぐ見据えて舟人は答える。 「は、問題児……だと自分は思っておりませんが。ゆ……花登一飛と共に精一杯任務に励む所存です」 「ふむ。……そうか、それは心強い」 上官のいたずら気な瞳が穏やかな色へと変わるのに気づかず、舟人は再び書類の上に目線を落とした。 由良が何て言おうと、もう自分は覚悟を決めたのだ。 だから俺は由良を信じているし、由良にも俺を信じてもらいたい。そのためにはいち早く瑞雲に乗らねばならない。 ため息の代わりに腕に力が入る。右手に握った鉛筆は、午睡を誘う静かな事務室の中で微かに軋む音を響かせた。
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