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試験飛行から一週間程経った頃、今度は戦闘演習の日がやってきた。
これで一斉の操縦の腕に問題ないとわかれば、本人の希望通り再び前線で活躍できることとなる。
演習の内容は三機の零戦を相手に空中での格闘戦を想定し飛行するというものだ。
実弾は搭載するが、撃たないのが決まりだ。一斉が撃墜待ったなしの位置に機体を操縦したら一斉の勝ち、逆もまた然りだ。
当日の朝、整備場に到着した七於に青い顔をした班員が駆け寄ってくる。いつか一斉を整備員の宿舎へ案内した守谷という整備員だ。
「野竹さん!たっ、大変です!」
「どうしたそんなに慌てて」
「戦闘演習の相手、三二隊の赤坂一飛がいるそうです!」
「な……」
赤坂は以前、一斉と喧嘩寸前に揉めたことがある。機体の整備に難癖をつけているのを七於が止めようとしたところを一斉が割って入り更に止めてくれたわけだが……。
「さすがにあいつももう気にしてないだろう……」
守谷を落ちつかせるためにそうは言ったものの、七於の額にはじわりと嫌な汗が浮かんだ。何ごともなく終わればいいのだが……。
七於の不安を他所に一斉はキリっと集中した顔で滑走路へ現れた。彼も戦闘演習の相手に赤坂がいることを知っているのだろうが、苛立ちや不安とは無縁な、落ち着いた様子だった。自分の不安が伝わらぬよう、そして集中の邪魔をしないよう、言葉は少なく一斉の乗り込んだ機体の最終確認を行う。
「ありがとう」
と機体を離れる七於に声をかけ、一斉が片手を挙げた。
「お前の飛びたいように飛んでこい!」
七於は周囲で回りだしたプロペラの音に負けないよう叫んだ。
一斉や赤坂、他の戦闘演習の相手となる搭乗員や、監督機に上官が乗り込み、各々の機体は空へ飛んで行った。
青い空には不吉な濃灰色の雲が大きく沸き立っていた。
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