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一斉の行水を手伝い、こざっぱりとなったその姿を見送った七於は黙々と汚れた水や盥を片付け、手拭いを洗うために少し遠くの河口へやってきていた。
この一帯は紅樹林とジャングルが繋がっており、水面にはまだら模様の日陰が広がっている。この一帯は珍しくヒルが少なく、時折魚も獲れたりするのであまり知られてはいないが、かなりの穴場だったりする。
七於は水中で白く揺らめく手拭いを眺めながら小さくため息をついた。汚れた服は一斉が持ち帰ったから後で彼が洗濯をするのだろう。暫くは腕がしんどいだろうから俺がやってやれば良かったと思ったが、実際あの場面ではそこまで頭が回らなかったのも事実だ。
七於はじくじくと疼くように熱を持った自身を解放したくて木の陰に身を隠し、張り詰めたモノを取り出した。洗ったばかりの手拭いを先端にあて、手早く熱を処理する。
脳裏に浮かぶのは一斉の姿だ。
たまに見る色のついた表情や先ほど見た健康的な身体を眼裏に浮かべて自身を慰めるのは、一斉を擬似的に犯しているようでその背徳感と高揚感で情けない程早く吐精した。
久しぶりに味わった快楽は七於の脳を焼き切り視界をも白く染め上げる。
手拭いの隙間から溢れた欲望の残滓がパタ…と音を立てて七於の足元の葉に落ちた。その音で我に返りそこへ目をやる。
鮮やかな緑の上についた白濁の雫が倒錯的な色合いを浮かべている。自分の行いを顕著に見せつけられたようで、七於は靴の裏でそれを乱雑に踏みしだいた。
「っ、はぁ…はっ……」
息を切らしながら汚れを拭う。
欲望を吐き出したというのに、尚も脳裏に焼き付いて離れない一斉の裸体を洗い流すように、七於は川の中へ頭を突っ込んだ。
バシャッと派手な音を立てて顔を上げると胸元へポタポタと雫が滴り、七於のシャツをみるみると濡らしていく。
髪の毛から滴った雫が口の端に雨粒のようにポツンと当たる。それを舌先でちろりと拭うと薄らと塩辛く、真水にも海水にもなりきれない今の自分を表しているようだ。
再び汚してしまった手拭いを今度は丁寧に洗う気になれず、七於は乱雑に手拭いを濯ぎ、再度深いため息をつきながら立ち上がる。
身体を漂う気怠さと、胸の内に渦巻く罪悪感に肩を落としながら宿舎へ戻ると、整備を終えた班員たちが目を丸くした。
「整備長!どうしたんですか、そんなに濡れて!」
「あ、ああ。暑かったから、つい」
本当のことなどとてもじゃないが言えないので、適当な理由をつけて答えると、
「野竹さんでもそんなことするんですね」
と彼らは疑う様子もなく信じてくれたので、それが余計に彼らに言えないようなことをしてしまった自分を苛むようで七於の罪悪感が増した。
「……整備はどうだ?全然そっちに行けずすまなかった」
七於が謝りながら訊ねると、一機の機体の修理を残し他は終えたと言う。
朝から常に一斉のことが気がかりで、安心したと思った矢先に自ら体力を使い果たしてしまったのだが、整備長としての務めはきちんと果たさねばならない。
濡れた髪を拭き、シャツを着替えた七於は夕暮れに染まる整備場で、黙々と誰よりも遅くまで機体の確認をするのであった。
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