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二人は砂漠を抜け、近くにある集落に到着した。
アサドはラクダから荷物を降ろし、楽にさせる。
「なんとかなるもんだな」
一時どうなるかと思ったが、真夏の砂漠渡りに成功した。
仕事は無事終わり。案内人と客という関係もこれでおしまいだ。あとは他の仕事を見つけて、もう一度砂漠を渡り、自分の家に帰るだけ。
いつもは何も思わないが、今日はなんだか名残惜しく感じていた。
「ありがと。楽しかったわ」
テルマは、にこっと笑い、左手を出した。
出会ったときは人形のように、綺麗だが生気のないように見えていたが、今は日に焼けた顔が色っぽく、人間味にあふれていた。
「ああ、こっちも」
アサドは左手でテルマの手を取り、握手した。
「んじゃ、そういうことで」
テルマはカバンを背負って歩き出す。
「ちょっと待って!」
テルマは足を止める。
「俺も連れていってくれ」
「なんで? 君には君のやることがあるでしょ?」
「俺も旅がしたい! 外の世界を見てみたいんだ」
「なにそれ。うさんくさい」
相変わらず素っ気ない。
感傷的になって何でも受け入れてくれるところだろうと思ってしまうが、彼女らしいとアサドは思う。
「あたしにはあたしの、君には君の人生があるんだから。適当なこと言わず、やりたいことやったら?」
「そうだな……。そうするよ」
テルマは軽く手を振って別れを告げ、また歩き出す。
「好きだー!! 君と一緒にいたいんだ!! だから連れていってくれーーっ!!」
「いいいいい!?」
テルマは慌てて駆け寄り、アサドの口を塞ぐ。
「叫ぶな! ななな何を言い出すんだよ。年上をからかうんじゃない!」
「自分のやりたいことをしろ、って言ったろ?」
アサドは得意げに笑う。
「言ったけどさ……」
「この先も大変だぜ。何にも建物がない草原地帯が広がってる」
「案内役として雇えと?」
「安くしとく」
テルマはため息をつく。
「分かった、雇うよ」
「よし!」
アサドは飛び上がって喜ぶ。
「だけど、テントの中で心臓鳴らすのはやめておくれよ。こっちもドキドキするじゃないか」
こうして、右手を探す二人の旅が始まった。
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