少年と来訪者

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 二人はいよいよ砂漠に足を踏み入れた。  徒歩の二人が先を歩き、後ろから三頭のラクダがついてくる。 「ちょっとペース落としたほうがいいって」  テルマと名乗った女性は、砂漠をずかずかと歩き、どんどん先へと進んでいく。  砂に慣れていないこともあり、つまずきがちで、見ているほうが不安になる。  それに今は真夏の昼過ぎ、一年で一番暑い時間だ。暑さに慣れているアサドでも、ちょっと歩いただけで汗だくになっていた。  けれどテルマは水を片手に、先へ先へと行こうとする。  急ぐ事情があるのは分かるが、そんなにまで急を要するものなんだろうか。  砂漠に時間なんてない。  あるのは砂だけと思うのだ。焦ったら死ぬし、目的地は逃げないから、時間を気にしてはいけない。  突然、テルマがばたりと砂上に倒れた。  砂に足を取られただけだと思っていたが、立ち上がらず、熱された砂に突っ伏したままだった。 「お、おいっ!」  アサドは駆け寄って助け起こす。  エルマは気を失っていた。顔は真っ赤でぐったりとしている。  熱中症だった。 「言わんこっちゃない……」  アサドはエルマを背負う。  同行の商人が熱中症で倒れるのはよくあるので、対処法は心得ている。  そのため緊急事態でも、背中に当たる胸の感触が気になるぐらいには、余裕があった。  テルマを砂丘の影まで連れていって降ろし、水筒を取り出して顔にかけてやる。 「おい、しっかりしろ!」 「う……」  かろうじて意識があった。  熱中症の対処は、水分補給と体を冷やすことだ  水筒を口元に持っていき、少しずつ水を飲ませてやる。  けれど、冷やすには服を脱がさないといけない。  アサドは唾をごくっと飲み込む。  相手が男なら決して悩むことはない。だが女性の服を脱がしていいものか……。  こういうとき、全身を覆うような服は面倒だ。熱がたまり続け、体を蝕むことになる。最悪、このまま命を落としてしまうだろう。  アサドは意を決して、彼女の黒いローブを脱がすことにした。 「ごめん……!」  ローブはワンピースになっているので、下からまくって首から脱がすしかない。  テルマの下着があらわになっていく。  なるべく見ないようにと注意していたが、アサドは驚愕する。  それは、テルマの裸を見たからではなかった。  右手がなかったのである。 「そんな……」  何かの間違いかと思ったが、右腕の先がなかった。  テルマの服は手が出ないほど長いそでだったが、それはあえて手を隠すためのものだったのだ。  見てはいけないものを見てしまった感覚は、女性の裸を見てしまった以上のものだ。  罪悪感で愕然としてしまう。
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