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「その犯人は手が欲しかったのか……?」
「正解!」
「手なんてどうすんだよ……」
「実はただの手じゃないんだ」
確かに残った左手は、陶磁器の白く、つやのある手だったが、切断したところでどうしようもないだろう。
「信じないと思うから言うけど。こう見えてもあたし、魔法使いなんだ」
「魔法使い……?」
「ほら、その顔! ここで魔法を見せてあげられれば一発なんだけど、右手がないとろくなもの使えなくてね。あの手には魔力がいっぱい詰まってて、犯人はそれが欲しかったわけ」
「その右手があれば魔法が使えるのか……?」
そうならば、確かに切り取ってでも欲しくなるのかもしれない。
「魔法自体は訓練をすれば、誰にでも使えるのさ。でも、魔力があまりにも少なくて、効果を感じられるほどじゃない。けれど、本物の魔法使いは、師匠から代々魔力を引き継ぐことで、人の何十倍、何百倍もの魔力を持つことができるんだ」
「じゃあ、右手を取り返すために犯人を追って……。犯人は誰か分かってるのか?」
ようやくテルマが無理に砂漠を越えようとした理由が判明する。
「ああ、もちろん。愛すべき兄弟子だよ」
「知り合い?」
「魔法使いは弟子を何人も持つんだけど、魔力を引き継ぐ都合上、一子相伝なのさ。それであたしが選ばれ、後継者になったわけだけど、兄弟子に逆恨みされてこのザマさ」
「はあ……」
後継者争いは一般家庭でも、商工ギルドでもよくあることだ。殺し合いに発展することもあるが、右手だけを持って行ったという話は聞いたことがない。
「別に右手を代々移植してるわけじゃないよ? 魔力だけを移すのさ。だけど、移すには儀式が必要で、それができるのは『魔法使いの里』のみ。つまり、犯人が向かう場所は分かってて、犯人より先にたどりつかないといかないわけさ」
「そういうことか……」
砂漠を直線で抜けられれば、他の経路や移動手段よりも早く着くことができる。
「もう真っ暗だ。そろそろ休もう」
話を聞きながら歩いているうちに、日は完全に落ちて、夜空には星が瞬いていた。
空は綺麗なので月明かりを頼りに歩くこともできるが、一週間の行程で初日から無理はできない。何より気温は何十度も下がっているため、歩き続けているとはいえ、寒さで体が震え始めていた。
アサドはラクダから荷物を降ろし、再びテントを張った。
テントは狭く、二人入るのがやっとだ。
テルマは体力を使い果たしたのか、横になったとたん眠りに落ちてしまう。
アサドもその隣に並ぶが、体はどうしてもくっついてしまう。
服越しにテルマの体温が伝わってきて、胸の鼓動が高まった。
「寝られるかよ……」
日中にテルマの下着姿を見てしまったこともあり、ドキドキとそわそわが止まらず、気持ちを抑えるだけで精一杯だ。
(でも、この感じ……悪くない……)
夜の寒さと人肌の温かさ。背中を通して伝わる体温が次第に心地よくなっていき、アサドは眠りに落ちた。
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