少年と魔女

3/5
前へ
/8ページ
次へ
 夜明けとともに動き始め、朝食を取って移動を開始する。  アサドは少し寝不足だったが、次の休憩が日が昇り、暑くなるまでなので、必死に眠さに耐えてラクダを引いた。 「アサド、なんか曇ってきたね」 「曇ってきた?」  この時期に雨は降らない。 「まさか……。しまった! 砂嵐だ!」  遠くに巨大な砂の壁が見えた。 「おいおいおい。砂嵐ってレベルじゃないぞ……。竜巻だ! 早くこっちへ!」  砂嵐は渦を巻いて天へと伸びている。  どんどんこちらに接近し、風は次第に強くなっていった。  アサドはラクダを座らせ、テルマを荷物にしがみつかせる。 「スカーフで口を塞いで、しっかり捕まって!」  あっという間に砂嵐が到達し、辺り一面が真っ白になる。  砂が叩きつけるように二人とラクダ三頭を襲い、とても目を開けられる状況ではなかった。  そして風が巻き上げるように吹き、体が持っていかれそうだ。 「きゃっ!」  テルマの声に反応し目を開けるが、テルマの足は宙に浮き、今にも飛ばされそうになっていた。 「テルマっ!!」  アサドは荷物にしがみつきながら、手を伸ばす。  だが届かなかった。  テルマには右手がなかったからだ。  片手だけでは堪えきれず、もう片方の腕はアサドの手をつかむことができない。  テルマは一瞬にして、アサドの視界から消えた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加