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夜明けとともに動き始め、朝食を取って移動を開始する。
アサドは少し寝不足だったが、次の休憩が日が昇り、暑くなるまでなので、必死に眠さに耐えてラクダを引いた。
「アサド、なんか曇ってきたね」
「曇ってきた?」
この時期に雨は降らない。
「まさか……。しまった! 砂嵐だ!」
遠くに巨大な砂の壁が見えた。
「おいおいおい。砂嵐ってレベルじゃないぞ……。竜巻だ! 早くこっちへ!」
砂嵐は渦を巻いて天へと伸びている。
どんどんこちらに接近し、風は次第に強くなっていった。
アサドはラクダを座らせ、テルマを荷物にしがみつかせる。
「スカーフで口を塞いで、しっかり捕まって!」
あっという間に砂嵐が到達し、辺り一面が真っ白になる。
砂が叩きつけるように二人とラクダ三頭を襲い、とても目を開けられる状況ではなかった。
そして風が巻き上げるように吹き、体が持っていかれそうだ。
「きゃっ!」
テルマの声に反応し目を開けるが、テルマの足は宙に浮き、今にも飛ばされそうになっていた。
「テルマっ!!」
アサドは荷物にしがみつきながら、手を伸ばす。
だが届かなかった。
テルマには右手がなかったからだ。
片手だけでは堪えきれず、もう片方の腕はアサドの手をつかむことができない。
テルマは一瞬にして、アサドの視界から消えた。
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