少年と魔女

4/5
前へ
/8ページ
次へ
 アサドは悩まなかった。  困ってる人を助けるのが砂漠の民。その血がアサドを突き動かした。  手を放し、風に任せて空を飛んだ。  竜巻に巻き上げられながらも、テルマを探す。  当然、体の自由も視界も利かない。テルマを見つけ、救い出すなど神技に等しかった。  だが、神ではないが、テルマは魔法使いだった。 「テルマ! そこにいるのか!?」  目の開けていれないほどの砂嵐の中、確かにテルマの存在を感じることができたのだ。  あの向こうにテルマがいる。見えていないのにそう思えた。  そしてついにテルマを目視する。  アサドは右手を伸ばそうとして、今度は左手を伸ばした。 「テルマ!」 「アサド!」  テルマは左手を伸ばし、アサドは左手でその手をしっかりつかんだ。  今思えば、アサドがはじめに握手を求めたとき、テルマが応じなかったのは、それが右手だったからだと気づく。拒絶したわけではなかったのだ。 「アサド、これからどうすればいい?」 「魔法でなんとかならないの?」 「そんなことできたら、とっくにやってる!」 「なにーーっ!?」  二人は砂嵐の外に、はじき出されていた。  そこは晴れ渡る空。視界もクリアだ。  しかし地上は遙かに遠い。 「落ちるうううーっ!!」  二人は自由落下を始めた。 「集中して! 空を飛ぶイメージ!」 「飛ぶ!? なんだよ、それ!」 「いいから! 生きたいならやりなさい!」  地面がどんどん近づいてくる。  アサドは訳も分からず、空を飛ぶことを考える。体がふわっと浮き、地面への衝突を免れる、そんなイメージ。  だが二人は加速をつけて地面に向かって落ちていく。  そして衝突。砂煙が巻き起こる。  アサドのイメージしたように浮かび上がることはなかった。 「痛ってええええ!!」  アサドはテルマの下敷きになっていた。 「死んでないんだから我慢しなさい」  結果的に魔法は発動していた。  ほんの一瞬だけ二人の体を浮かし、衝撃を和らげていたのだ。 「いつまで手握ってんのよ」  テルマは手を振り払って、アサドの上からどいた。 「なんだよ……。助けてやったのに」  右手を失った今のテルマに空を飛ぶ力はない。だが、アサドが潜在的に持つ魔力を、左手を通して受け取ることで、テルマが浮遊を行ったのであった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加