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アサドは悩まなかった。
困ってる人を助けるのが砂漠の民。その血がアサドを突き動かした。
手を放し、風に任せて空を飛んだ。
竜巻に巻き上げられながらも、テルマを探す。
当然、体の自由も視界も利かない。テルマを見つけ、救い出すなど神技に等しかった。
だが、神ではないが、テルマは魔法使いだった。
「テルマ! そこにいるのか!?」
目の開けていれないほどの砂嵐の中、確かにテルマの存在を感じることができたのだ。
あの向こうにテルマがいる。見えていないのにそう思えた。
そしてついにテルマを目視する。
アサドは右手を伸ばそうとして、今度は左手を伸ばした。
「テルマ!」
「アサド!」
テルマは左手を伸ばし、アサドは左手でその手をしっかりつかんだ。
今思えば、アサドがはじめに握手を求めたとき、テルマが応じなかったのは、それが右手だったからだと気づく。拒絶したわけではなかったのだ。
「アサド、これからどうすればいい?」
「魔法でなんとかならないの?」
「そんなことできたら、とっくにやってる!」
「なにーーっ!?」
二人は砂嵐の外に、はじき出されていた。
そこは晴れ渡る空。視界もクリアだ。
しかし地上は遙かに遠い。
「落ちるうううーっ!!」
二人は自由落下を始めた。
「集中して! 空を飛ぶイメージ!」
「飛ぶ!? なんだよ、それ!」
「いいから! 生きたいならやりなさい!」
地面がどんどん近づいてくる。
アサドは訳も分からず、空を飛ぶことを考える。体がふわっと浮き、地面への衝突を免れる、そんなイメージ。
だが二人は加速をつけて地面に向かって落ちていく。
そして衝突。砂煙が巻き起こる。
アサドのイメージしたように浮かび上がることはなかった。
「痛ってええええ!!」
アサドはテルマの下敷きになっていた。
「死んでないんだから我慢しなさい」
結果的に魔法は発動していた。
ほんの一瞬だけ二人の体を浮かし、衝撃を和らげていたのだ。
「いつまで手握ってんのよ」
テルマは手を振り払って、アサドの上からどいた。
「なんだよ……。助けてやったのに」
右手を失った今のテルマに空を飛ぶ力はない。だが、アサドが潜在的に持つ魔力を、左手を通して受け取ることで、テルマが浮遊を行ったのであった。
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