バス停

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おばあちゃんが焼いてれた魚と、私が作るのを手伝った豆腐とネギが入った味噌汁が並ぶ夕食。 「明日香ちゃん、学校には慣れたの?」 畳の上で少しだけ足を崩し味噌汁を口にする私に、おばあちゃんが問いてきた。 「うん、慣れてきたよ」 私はにこりと笑った。 「確か明日香はバス通いだったな」 今度はご飯を食べながらニュース番組を見ていたおじいちゃんが、こちらに顔を向けて問う。 「うん、結構朝は人が多いけど、慣れてきたら普通だよ。こんなもんかって感じで」 人が多すぎて乗りたくない時もあるけれど。 そういう時は今日みたいにベンチで次のバスが来るまで待っているから。 「───そういえば、この前薫君を見かけたな」 魚に箸をのばそうとした時、テレビの方を見るために顔の位置を動かしたおじいちゃんが思い出したように呟いた。 薫君? 「ああ、薫ちゃんね、また一段と男らしくなったわよねぇ」 薫ちゃん? おじいちゃんとおばあちゃんの話題の中に出てきた『薫』。それってやっぱり···あの人だよね。 今日、半ば無理やり、私を自転車で送ってくれた人。 「あの子、バイト始めたそうよ」 「なんだ、弁当の手伝いか?」 「違うみたいよ。満子さんからはガソリンスタンドって聞いたけど」 満子さん? 「あの、おばあちゃん、薫って?」 まるで初めて聞いたようにおばあちゃんに問う。 今日の放課後の事は無かったように。 「あら、言わなかった?お隣のお孫さんよ」 お隣? この家は一軒家。 その横に住んでいるのが、あの薫って人? っていうか孫って? 「薫ちゃんも明日香ちゃんと同じで、おばあちゃんたちと住んでるのよ」 私と同じ? 「そういえば、薫君も西高じゃなかったか?」 「そうなのよ〜、満子さんと昨日一緒に話してて。明日香ちゃんは薫ちゃんの事知らなかった?会ったこと無かったかしら」 多分、いや、絶対今日会った人だろう。 「分からないけど···、 あるのかな」 薫。 家がお隣さん。 ってことは、おじいちゃんとおばあちゃんが薫のことを知ってて当たり前。家を知ってても当たり前。 「同い年だから、もしかしたら会ってるかも知れないわねぇ。いい子よ、薫ちゃん」 薫ちゃん···。 あの男らしい人からは到底想像出来ないぐらいの可愛らしい呼び名。 どうして薫は私の名前も知っていたんだろう。 もしかしたら2人のどちらかが薫に私のことを言ったのかもしれない。 「明日香ちゃん、おかわり食べる?」 「ううん、もうお腹いっぱい、ありがとう」 私の顔を知っていたのも、2人のどちらかが教えたのか。
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