バス停

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どうして私の名前を知ってるの? 初めて会ったのに。 初対面のはずなのに。 「お前に何かあったら、ばーちゃんが心配するからな」 ばーちゃん? ますます意味が分からなくなる私に、薫は「早くしろ」と低い声を出した。 それに怖くなった私は、まるで男に従うように自転車に乗ることしか出来なくて。 不良そうだし、逆らったら殴られるかもしれない···。 「あの···」 薫には捕まらず、自転車の所に捕まりながらサドルをこぐ薫に話しかけた。 「なんだよ」 ちょうど赤信号で止まり、薫は少しだけ顔をこちらに向けた。男らしい顔つきの彼。 「どうして私の名前を···」 ポツリと呟いた私の声に薫は聞こえていたらしく、「ああ」と返事がきた。 「小せぇ時から知ってる」 小さな時? どういう意味? 意味が分からない。 「顔は最近だけどな」 顔は最近? それって······。 私がここへ引っ越してきてから? いったい何故? 「ついたぞ」 そう言われてついたのは、今、自分が住んでいる家だった。表札の文字は「川瀬」。ここはおばあちゃんとおじいちゃんの家。 ついてから気づく。 私、家の場所を言っていない。 だから薫が知っているのこと自体おかしい事なのに。 送ってくれてありがとうも、 どうして家を知ってるの?も、 私の口から出ることなく、「ついたぞ」から何も言わなくなった薫は、私の鞄を渡してきて本当に急いでいるのかサドルをこぎ来た道を戻って行った。 男らしい広い背中を見ながら、あの人は誰だったのだろうかと、頭の9割はそんな疑問だった。 ────家の中に入る頃にはもう、頭のふらつきも、足の震えも無くなっていた。
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