バス停

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────翌日の学校。 おばあちゃんに聞かれた「学校には慣れた?」の質問。 あの時は「慣れたよ」と答えたけれど、実際は慣れたわけじゃない。 家から近い学校で、尚且つ制服重視で選んだ高校。 女子がブレザー、男子が学ランの西高校という学校は『不良』が多いということでこの地域では有名だった。私はどちらかと言うと普通···、いや、自分からは喋らないし根暗な方なわけで。 授業中でも騒ぎ立てる生徒たちと仲良くなれるはずもなかった。 茶髪 ピアス 制服の着崩し 口の悪さ 化粧 に、比べて根暗な私はどうみても違うタイプの人間。友人が出来るはずもない。 まあ、確かに、友達は出来ないけど、こういう騒がしい『現状』には慣れたかもしれない。 お昼時になっても家がお隣であるらしい薫という人物に会うことなく、お弁当タイムを迎えた。 いつものように学校に設置してある自動販売機に行き、お茶を購入しようとした時だった。 「あ」 という声が間近から聞こえ、別に何を考えるわけでもなく自動販売機にお金を入れながら声のした方へと顔を向けた。 私の真後ろを通り過ぎようとした男。 第一印象は金色に近い髪色···。 そんな彼は私に、ぺこりと軽く頭を下げてきて「どうも」と足を止め、声をかけてきた。 どうも? 誰? この学校に入学してから見慣れた金髪。 だけど私の知り合いに、金髪の男なんていないはずで。 「薫の知り合い···だっけ?」 そう言って穏やかに笑いながら、「体調は大丈夫なの?」と私の目を見ながら聞いてきた。 そこでようやく思い出す。 昨日、薫の後ろにいた友達···、確か聖と呼ばれていた···。「先に行く」と言ってどこかへ行ったような? 「あ···、うん」 「良かったね」 またにこりと笑った聖は、「じゃあ、また」と足を進めようとして···。 「あ、あの、待って」 咄嗟に私は、聖を引き止めていた。 普通なら声をかけるなんてしない、どう見ても不良の彼。だけど容易に話しかけることが出来たのは、穏やかに笑ってくるせいかもしれない。 「なに?」 首を傾げる聖。 「えっと···」 何故引き止めたんだろうと、聖の顔を見て思う。別に何も言うことはないのに。 「薫···君と、このあと会う?」 咄嗟に出たのはこんな言葉。 「薫と?あー、うん、同じクラスだし」 「ちょ、ちょっと待ってね」 私は首を傾げたままの聖を置いて、自動販売機にお金を投入した。咄嗟に買ったのは、私がいつも買っている種類のお茶。 「これ、薫君に···昨日のお礼って。渡してくれないかな」 500ミリリットルの、普通のお茶のペットボトル。 「薫に?分かった、渡しとく」 「ありがとう」 ペットボトルを受け取った聖は、また穏やかに笑い、自分のクラスであろう方へと足を進めた。 よく笑うだなあと、心の中で思う。 私だったらあんなふうに穏やかに笑えないと。 私···、どうしてお茶を渡したんだろう···。 あまり関わりたくなかったのに。 関わりたくないから、昨日のおばあちゃんとおじいちゃんの薫の話題を知らないふりをしたのに。 そんな事を思いながら、先ほど聖に渡した同じペットボトルのお茶を購入し、聖が行った方の真逆の廊下に足を進めた。
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