バス停

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放課後、学校の最寄りのバス停で、バスを待つ。 この学校の生徒はあまりバスを使わないらしく、ほとんどは自転車か、学校近くの電車。あと原付で登校している。 校則では禁止になっている原付。だけど原付で登校している生徒に、先生は何も言わない。何故か先生公認の原付登校。 「明日香」 男らしい低い声が、私の名前を呼んだ。 振り向けばやっぱり、昨日と同じような姿で薫がいた。 自転車に乗っている薫。 「これ、ありがとな」 そういった薫の手の中には、私が買ったペットボトルがあった。どうやら聖が渡してくれたらしい。 聖は昨日とは違い今日はいなくて、薫だけだった。 まさか、わざわざお礼を言いにここへ来た? 私が昨日みたいにバス停にいると思って? 「ううん、昨日のお礼だから」 「バス待ってんの?」 「うん」 薫はペットボトルをかごの中に入れ、そのままスムーズに左手のこうをあげて、手首の方を見た。 どう見てもそのポーズは腕時計を見ていて。 少しだけ、眉間にシワが寄った。 「悪ぃな、今日は送れねぇ」 スっと目線をこちらに戻した薫は、そんな事を言ってくる。 送れねぇ? って、もし時間に余裕があって大丈夫だったらまた送ってくれたってこと? 「う、ううん、大丈夫だから。そんなわざわざ···」 「悪ぃな」 悪ぃなって···。 どうして謝るの? 何も悪いことしてないのに。 時間があっても、いくらお隣同士でも、別に送ってもらわなくて···。 「バス何時?」 「あと五分ぐらいかな···」 はっきり時計を見たわけじゃないけど。 それぐらいに来ると思うと、だいたいの「五分」口にする。 「そう」 そうって···。 って、あれ? 「急いでるんじゃないの?」 腕時計を見て眉間にシワを寄せたぐらい難しい顔をしたのに。 「家に帰ったら間に合わなくなる」 それって··· 「バイト?」 聞く私に、薫は「そう」と返事をしてきた。 そういえば、と。昨日おばあちゃんが言っていたのを思い出す。 「ガソスタ?」 そう言った私の言葉に、薫は少し驚いた顔をした。なんで知ってる?そんな顔。 だけどもそんな顔をしていたのは三秒ほどで、またたく間に納得した表情になった。 「ばーさんから聞いたのか?」 「聞いたっていうか···おじいちゃんと話しているの聞いた」 まあ、結局は聞いてるんだけど。 「まじで世間話好きだな、あの2人」 あの2人? それっておばあちゃんとおじいちゃんのこと? 困った顔をしながら薫は、ふと、道路の方へと視線を向けた。そして「バス来たぞ」と言ってきた。 私の中では五分後だったはずのバスは、1分足らずで到着した。 「気ぃつけて帰れよ」 バスが来るまで、待っててくれた薫。 ────いい子よ、薫ちゃん おばあちゃんの言葉を思い出す。 外見から見ては分かりづらいけれど、いい人なんだと思う。 「またね、薫」 呼び捨てで呼んだことに対して、薫はどう思っているだろう。 片腕を軽く上げる薫を背に、私はバスに乗り込んだ。 今日のバスの中は、いつもより人が少ない気がした。
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