弁当屋

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弁当屋

男とはあまり関わりたくない。 そう思っていたのに、どうしてあんなにも薫と会話をしてしまったんだろうとバスに揺れながら考え込む。 多分、おばあちゃんとおじいちゃんの知り合いだから。全くの他人ではないから。 だからあんなふうにお茶をお礼として渡したのだろうと、自宅最寄りのバス停につく頃には自己解決していた。 「あら、あなた明日香ちゃん?」 家の前に、1人の女性がいた。 その人はおばあちゃんぐらいの60歳程女性。 誰···? この2日間で同じことを三度も思ったのは生まれて初めてかもしれない。二度あることは三度あるとは、よく言ったものだと思う。 薫、聖、そしてこのお年寄りの女性。 家になにか用だろうか? おばあちゃんの知り合いとか? 「は、はい、そうです」 「縁ちゃんの言ってた通り可愛らしいわねぇ」 ゆかりちゃん···、私のおばあちゃんの名前を言うってことは、やっぱりおばあちゃんの知り合いらしい。 「うちの薫と同じ学校なんだってねぇ」 にこにこと、シワを寄せて笑う女性。 うちの薫? それって、 「あの···、満子さんですか?」 昨日おばあちゃんが言っていた『満子』。薫のおばあちゃん···、らしき人。 「あらやだ、知ってたの?」 薫の笑った顔は見たことないけど、この人はよく笑う人だと思った。 「おばあちゃんが話しているのを聞いてて」 「縁さんが?そうなの、私昔から縁さんとは仲良いのよ」 「そうなんですね」 「そうだ、これ、渡してて貰える?」 「え?」 満子さんの手には、何かが入ったビニール袋があった。半透明ではなく、白い袋なので何が入っているか分からない。 「縁さん、留守みたいだから」 留守? 「あ、はい」 満子さんの手からビニール袋を受け取ると、満子さんは「縁さんによろしくね」とにこにこと笑い、隣の家へと帰っていった。 その家の表札には、「橋本」と書かれてあった。 ビニールの中に入っていたのは、触り心地からして何かが入ったタッパーだった。 おばあちゃんが買い物から帰ってきて、「満子さんに貰ったよ」と言えば、「いつも悪いわねぇ」と呟いた。 いつも? 「何が入ってるの?」 何のためらいもなく、ビニール袋から取り出したおばあちゃん。やはり私の予想通り、半透明のタッパーで。 「おかずよ」 「おかず?」 「弁当屋で余ったらくれるのよ」 弁当屋? 「おばあちゃん、弁当屋って?」 「橋本さん夫婦が2人で弁当屋をしてるのよ。小さな店だけどね、ほらぁ、バス停の近くにあるでしょ、そこよ」 「へぇ、そうなんだ」 バス停の近く?そんなのあったかな?と、思い出すけどここへ来てまだ2週間少しだからか、上手く思い出せない。 薫の祖父と祖母が開いている弁当屋。 「この前のヒジキも満子さんがくれたのよ」 おばあちゃんがそう言ったけれど、正直、いつヒジキを食べたのか思い出せなかった。 おばあちゃんと満子さんは昔から仲が良く、弁当屋のおかずをくれる仲らしい。 そんな孫の薫のことをよく知ってるおばあちゃんは、当たり前といえば当たり前なのかもしれない。 私の名前も知っていた満子さん。 「今日は唐揚げね、満子さんの唐揚げ美味しいのよ」 もしかしたら、 薫が言っていた「あの2人、世間話好きだな」と言っていた“あの2人”とは、おばあちゃんと満子さんのことだったのかもしれない。
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