弁当屋

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「────ねぇねぇ、木下さん」 何事だと思った。 茶髪で、金髪で、凄く派手な化粧をして、スカートを短くしている女生徒が、普通に話しかけてきたから。 普通に授業中だけれども、「ちょっといーい?」と私には到底できないような可愛い笑顔をする彼女。 「あ···うん」 一体何? こうやって同じクラスの人と会話をするのは初めてで。 「木下さんってぇ、橋本とかぁ、山本と仲いいのぉ?」 「え?」 なに、橋本? 薫のこと? 山本? 誰? 「仲いいの?なんかぁ、見たって子がいるんだけど」 見た? 何を? 出来るならば、主語をつけてほしいけれど。 「あの、山本って?」 私がそう言うと、女の子は一瞬、はあ?って顔をしたけど、すぐに可愛らしい笑顔になった。 「もう、山本聖にきまってんじゃーん」 聖?それって、薫の友達の···。 「別に···仲良くはないと思うけど」 「えーでもぉ、昨日、飲み物渡してたんでしょ?」 どうして彼女が知っているのか。 「そうだけど···」 「じゃあ、仲いいんじゃん」 「や、それは···」 薫に渡してもらうためで。 「橋本とも仲いいんでしょ?」 「橋本って薫のこと?」 「えー、下の名前で呼んでるのー?」 「······」 この女の子は、いったい何が言いたいのだろう? 「私、優美っていうんだぁ、仲良くしようよ」 「え?」 「木下さんてぇ、名前なんていうの?」 「明日香···だけど」 「そうなんだぁ、よろしくねぇ」 にこにこと、可愛らしい笑顔する彼女、優美。 そんな彼女は「またねぇ」と手を振りながら、自分の席の方へと戻っていた。 まるで嵐のような出来事だった。 今日のバス停に、薫は現れなかった。 もしかしたら来るかな?と思ったけど、予想とは違い来ることは無くて。 一昨日は偶然体調の悪い私を送ってくれて、昨日はお茶のお礼を言いに来てくれたけれど···。今日は別に用事なんて無かったから、来ないのは当たり前だった。 一本目のバスは人が多くて混んでいたため、二本目のバスに乗り込み自宅へと向かった。 家につき玄関先でおばあちゃんと鉢合わせした。どうやらカラになったタッパーを満子さんに返すところだったらしく。 「私、返してくるよ。お礼も言いたいから」 まだ靴を履いている私に、スリッパ状態のおばあちゃん。 「そう、お願いね。この時間なら家にいると思うから」 おばあちゃんはすんなりとタッパーが入った袋を渡してきた。空になったタッパーは預かった時よりも軽かった。 数秒先の「橋本家」のインターホンを押す。 「あらあ、明日香ちゃんじゃないの」 優しい笑顔をした満子さん。薫の祖母である人。 満子さんは「わざわざありがとねぇ」と、タッパーを差し出しお礼を言う私にまた笑顔を向ける。 「とても美味しかったです」 「そうでしょ〜、これ、薫も好きなのよ」 それを聞いて納得している自分がいた。あんにも大きな体に男らしい薫。野菜よりも肉がいいと言いそうな風貌をしている。 「そうなんですか。薫君はバイトへ?」 ただ何となく聞いた。 だけども満子さんの顔色が嬉しそうに瞳を輝かせて。 「薫と仲良くなったの?」 と、先程よりも大きな声を出す満子さん。 仲良くなったのだうか? 私と薫が? まあ、下の名前で呼ぶ仲ではあるけれど。 友達とか、そういうのではないから。 「この前少し話しまして」 「あらそうなの?」 「はい」 「もしかして、薫に用事でもあった?」 「あ、いえ、そういうのではなくて···」 「今日は遊びに行ってるのよ」 「遊びに?」 「聖くんって言ってねぇ、それまたいい男でねぇ。確か昴(すばる)くんも一緒だったかしら?」 今日はバイトではなく、薫は聖と、初めて名を聞く昴という人と遊びに行っているらしい。 「あの子ったら夜はあんまりいないのよ。今日も帰ってくるのは22時過ぎかしら」 聞いてもないのに、薫のことを教えてくれる満子さん。もしかしたら薫もこんなふうに満子さんから私のことを聞いて、色んなことを知っているのかもしれない。 私はもう1度満子さんにお礼を言い、自宅へと戻った。
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