エピローグ “オトモダチについて”

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エピローグ “オトモダチについて”

岬 七海の遺体は腐敗が酷く、見るに耐えないような状態だった。 髪は抜け、皮膚は溶けて……目が飛び出していた。 七海の父と同じ姿……。 ……警察の調べによると、死亡したのは1週間前、失踪してすぐだろうと言われた。 遺体と対面し、確認を終えた幸斗はふらふらと潜上署の遺体安置室を出て、車に戻った。 運転席から見える夕日が眩しい。 曇っているがとても綺麗だ。 幸斗はそのまま頭を抱えた。 なっちゃんが、死んだ……。 不思議と涙は出て来なかった。 悲しくないわけではない。 実感が湧かないのだ。 ちなみに、外傷はなかったらしい。 兵隊人形に殺されたんじゃないのか……? いや…… もしかして、兵隊人形を説得して止めようとして 何らかの形で海に……? こんなことを考えたところで最早何の意味もない。 なっちゃんは、もう戻って来ない。 俺は結局、何もできなかった。 誰一人として救えなかった。 そう、あの鵜飼すらも 目の前で殺されたんだ。 兵隊人形……いや、鮎沢 蜜水とその娘、鮎沢 蜜波(みつな)は二人で一人だった。 俺はてっきり母の蜜水の霊が兵隊人形の正体だと思っていた。 だけど違ったんだ。 正確には、母と……死後出産で生まれた娘の霊が憑いていた。 仮に、なっちゃんが全ての事情を知り、母の方への説得をなっちゃんがしていたとしても 娘と母の行動原理は異なる部分も多い。 つまりなっちゃんは、娘の方に殺されたんだ。 母の方がもしなっちゃんの説得により、成仏していたとしても まだあの人形には娘の霊もいる。 娘の霊は“オトモダチ”が欲しいと言っていた。 行動原理は道連れで、あの世で遊ぶ仲間が欲しいのだろうと推測される。 だけどもう全て終わったこと。 ここまでの期間兵隊人形が現れないということは なっちゃんとともに海に消えたのではないか? 自分たち親子が死んだ海に……。 兵隊人形事件は終わった。 何もかもが可能性の話だが、恐らくはだいたいこの予想は合っているのだろう。 そして兵隊人形も海に落ちたのならば、 最悪な形だが、本当にこれで事件は終わったのかもしれない…… 兵隊人形の残骸でも海で見つかればいいんだがな…… 雨が降ってきた。 なっちゃんの亡くなった日も確か雨だったな。 兵隊人形なら、雨があればどこにでも現れられそうだ。 奴は水のある場所に現れる……。 などと考えていたら、雨の中、人影がこちらに向かって走ってきているのがバックミラーから見えて一瞬肝を冷やした。 兵隊人形が再び現れた……と思ったがそうではなく、 警察の男性だった。 さっき、遺体の確認の時にいた男性だ。 どうしたのだろう。 ひどく青い顔をしている。 『どうしました?』 運転席の窓を開け、男性に聞く幸斗。 『松井さん…… 今さらなんですが 遺体の方は妊娠していたんですよね?』 『はい』 『情報が行き渡っておらず、今しがたわかったことなんですが 岬 七海さんが妊娠していたと先程わかりまして 大至急 調べてみたのですが』 『……?』 『遺体の子宮には胎児の遺体がありませんでした』 『え……』 幸斗の背に冷たいものが走る。 赤ちゃんの遺体が、ない? 幸斗はそこで、あの検索結果を思い出した。 “死後出産はありますか?”
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