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(というか、何、この状況)
先輩は私の手を握りながら時折指を絡めたり爪を弾いたりしている。そしてその口からは息をするように私を褒める言葉や今はフリーで彼女募集中を匂わせるような軽口を叩いている。
式場で出会った時は一瞬胸が高鳴り何年かぶりのときめきに襲われたけれど何故か今のこの状況が続けば続くほど、先輩が薄っぺらい話をすればするほどに私の心の温度は低下して行った。
(先輩ってこんな人だったっけ?)
先輩を運命の人と信じて疑わなかったあの時の私は何を見ていたのだろう。まぁ、大した恋愛経験もなく初心だったといえばそうなのかもしれないけれど。
(……あぁ、そっか、解った)
しばらく考えて出た答えに納得した。私はもう自分に見合ったいい男と付き合っているから何も響かないのだ。
確かにあの時の私にとっては先輩は運命の人だった。でも今は違うとはっきりと言える。だからといって朔太郎が運命の人かと問われればはっきりとは肯定出来ない。
そもそも何を根拠に運命の人と定義付けるのか解らない。解らないから答えようがない。そういう諸々のことを悟ってしまったのだ。
「──ねぇ、訊いてる?」
「…え?」
「酷いなぁ、俺、一生懸命音葉ちゃんを口説いているのに」
「……」
「ね?だから場所変えてもう少し深い話、しようよ」
「あの、私、彼氏いるって言いましたよ」
思いの外近い距離にいた先輩から少し体をずらした。
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