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自宅最寄り駅に着いた頃にはすっかり先輩との茶番は忘れてしまっていた。きっと先輩の方も自分になびかなかった私とのことなんかもうすっかり忘れているだろう。分かるよ、だって私と先輩は同じ日に生まれたのだから。
勿論同じ誕生日だからといって同じ思考だとは限らないけれど、その点についてだけは自信があった。
「音葉」
「!」
改札を抜けて少し歩いた処で名前を呼ばれ驚いた。其処に立っていたのは朔太郎だった。
「え…朔太郎?どうしたの?」
「そろそろ着く頃かなと思って迎えに来た」
そういえば電車に乗った時に今から帰るとメールしていた。彼からは分かったとたった四文字の返信が来ただけだったから特に気にもしなかったけれどまさか迎えに来てくれるとは思わなかった。
「珍しいね、迎えに来るなんて」
「……」
「ん?」
「…早く逢いたくて」
「え」
「音葉に……その、心配だったから」
「心配?」
「……」
「なんで心配なの?」
「……結婚式でゼミ仲間と会ったら……音葉に言い寄って来る男がいるかもしれない」
「……」
「音葉は俺のなのに……分かっていても……心配で」
「~~~ぷはっ!」
「?!」
私は思わず吹き出してしまった。そんな私を見て彼は「笑うな」と膨れたけれどこれが笑わずにいられるか。
(理由はどうあれ朔太郎も早く逢いたいと思ってくれていたなんて)
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