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「何?暑いんだけど」
「寂しかったから構って欲しい」
「それ、今じゃなきゃダメなの?」
「……」
「なんで黙るの」
「……」
「おーい、ちゃんと言って」
「……」
背中から抱きつかれているので彼の表情が読み解けない。だけど交際歴三年の私にはこんな状況も慣れたものだった。
私は巻かれていた彼の腕を外してクルッと半回転して顔を突き合わせる。そして徐に彼の唇に軽くキスした。
「今はそれだけ。汗かいてめっちゃ不快だからお風呂に入ってさっぱりしたい。それからならいっぱい構ってあげる」
「……ん、解った」
これが長く付き合って来たからこそ出来る対処法だ。
彼は素直な気持ちを伝えたのにそれが受け入れられなかったことに対して羞恥と寂しさを抱いて黙ってしまう。それに対して私はどうして受け入れないのか理由を述べて代打案を出す。それで気まずさも不満も解消する。
(此処に辿り着くまでが長かったなぁ…)
付き合う前の友人としての彼は解り易い男だと思っていた。だけど付き合い始めてから──というより一緒に暮らし始めてから彼の性格の解り辛さが顕著になった。
いわゆる蠍座っぽい、AB型っぽい性格とでもいうのだろうか。もっともそんなもののせいにはしたくはないのだけれどほんのちょっとだけ占いを参考にさせてもらったこともあった。
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