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「ねぇ、もしよかったら後で話さない?」
その酷く懐かしい声に鼓膜も心も震えてしまい、何も考えずに気が付けば「…はい」と答えてしまっていた。
そうして式終わり、誘われるがまま先輩に連れられて雰囲気のいいバーに来ていた。カウンター席で隣り合って座るシチュエーションはまるでドラマのワンシーンのようだ。
「久しぶりの再会に乾杯」
「…乾杯」
小さくカチンと音を立てたグラスの中身を流し込みながらも私の心中は穏やかではなかった。どうして今、此処にいるのだろう──と。
(なんだかこれって……)
色々誤解してしまいそうな展開ではないかと今更ながらに気が付く。ただ再会を懐かしがって話すだけならカフェでもファミレスでもいいはずなのに。
確かに既にアルコールは披露宴会場で摂取済みではあるけれどそれにしてもなぁ…なんて考えていると不意に右手に温もりを感じた。
(え…!)
視線を向けるとカウンターに置いていた右手に先輩の掌が乗せられていた。いわゆる包み込むような感じで握られている。
「あ、あの」
「音葉ちゃん今、彼氏いるの?」
「え……あ、はい」
「そうなんだ。だから大学の時よりも綺麗になったんだね」
「……」
(綺麗に……なった…?)
ということはまるで大学生の頃は綺麗ではなかったと、そういう解釈になるのだけれど。
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