第2章 出会い編(中高生期)

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唇がゆっくり離れる。けど、センセは、すぐに、上唇の先端をまた寄せてきて。離して。もう一度触れて。名残り惜しそうに舌の先を入れてくる。とろけて半開きになったままのオレの唇の間に。 やっと未練をかなぐり捨てるみたいに、センセがサッと顔を引くと、高等部の校舎の裏からのぞいてる夕日の光がまともに目に飛び込んできて、まぶしかった。オレを見下ろすセンセの目も、まぶしそうで。夕日を背にしてるのに。すごく、まぶしそうで、センセ。 好きだよ、センセ。そういう目で見つめられるの、すごく好き。 オレは、ホッペタをスリ寄せる。オレのホッペタに触れてるセンセの手に。大きな、大人の男のひとの手。包みこまれてるような気分になれる。圧倒的な安心感に。守られてるような気分になる。 「ねぇ、こぐまちゃん……」 センセの手が、すべる。ホッペタから耳に。耳たぶの後ろを指先で撫でる。 「くすぐったいよ、センセ」 オレが身じろぎすると、手は下に降りる。首の輪郭をなぞって、シャツのエリ元までたどりつくと、いったん離れて。ワープする。ブレザーのスソの下にもぐり込んで。シャツの上から背中を撫でる。ちょっと遠慮がちに。 「……伊香保温泉(いかほおんせん)とか。行ったことある、こぐまちゃん?」 「伊香保? ないなぁー。地元なんで、あえて行く機会なかったりすんだよね、むしろ。車で30分ちょっとで着いちゃうような距離なのに。あ、でも、小さい頃オヤジが『グリーン牧場』連れてってくれたとき、帰りに石段街んとこの露天風呂に入ったよ」 「『グリーン牧場』って?」 「伊香保にあんの。羊とかヤギとかウサギとかと遊べて。んで、牛のチチシボリしたり。あと、しぼりたての牛乳とかソフトクリームとか売ってる。そーゆーとこ」 「ふうん」 センセは、あんまり要領を得ないみたいに、お義理っぽい生返事。その後、ノドボトケが「ゴクリ」と動くのが見えた。顔に似合わずゴツめの骨スジが浮かぶノド。だけど、首はスラッと細長い。キイっちゃんもそうだった。首が長くて。手足も長くて。いつでも姿勢がピンと真っ直ぐに伸びてたから、無雑作に立ってるだけでもアカヌケて見えて。カッコ良かった。 センセのノドボトケが、また「ゴクリ」。ナマツバを飲み込んでる音が聞こえそう。でも、口調はあくまでサリゲなく。 「せっかく群馬に赴任したんだから1回くらい行っときたいんだよね、温泉。伊香保って有名でしょ? 旅館とかも」 「温泉でお泊まり、したいの?」 「まあ。ほら。せっかくだし……ちょっと思いついただけなんだけど」 「誰と行くの? センセー1人で?」 「…………」 背中を動く手が、急にギコチなくなる。可愛いんだセンセ。もうちょっとイジメちゃおうかな。 「オレと泊まりたい?」 「うん。だけど……や、やっぱりムリかな。そういうのは」 「ううん。オレも、センセと一緒に温泉入って旅館にお泊まりしたい」 「ホント?」 「だって。オレのドーテイ捨てさせてくれる気なんしょ、センセ?」 「え、……ええぇーっ!?」 あはは。すんごいリアクション。 「それとも、センセが。オレのバージン奪っちゃう気?」 瞬間、センセの表情が一変する。欲情したオスの顔に。『バージン』ってキーワードがスイッチになったらしい。けっこうケダモノなのね、センセ。 けど。どうしようオレ。ちょっと……ビビってきた、かも。 センセの、空いてた方の手がオレの肩を引き寄せて。もう片方の手はシャツの背中からすべり落ちて、ズボンの上から、オレのお尻をまさぐる。ふくらみをゆっくりモミしだく。やらしい手つき。 「センセェ……エッチ」 「ごめん。教師失格だよね。絶対に、いけないことなのに」 でも、申し訳なさそうなセリフとはウラハラに、センセはオレに夢中でキスする。ホッペタに。耳元に。アゴの先に。首スジに。お尻にあった手は、いつの間にか前に移動して。ベルトを外そうとする。カチャカチャとバックルの金具のコスれ合う不協和音で分かる、アセった手つき。 「センセ……」やだ、ヤバい。ちょっと待って。 だって、今日は。教室の暖房が効きすぎだったから。いっぱいアセかいたし。 それに、今日のトランクス、ゴムがヨレヨレで。年季入ってんの。でも、はき心地はメッチャいいの、一番。だからヘビロテしすぎちゃったんだもん。ガラもダサいけど。オフクロがオヤジのパンツ買いに行ったついでに特売のトランクス見つけて。『しまむら』で。「セイちゃん、こうゆうの、はくでしょ?」つって。ありえないくらいインチキくさい迷彩ガラ。迷彩っつーよか、コーヒーこぼしたシミ? みたいな。クラスのヤツらと連れションするなら笑いが取れるからいいんだけどさ。センセに見られたらハズカシい。やだ。絶対。そんな恥辱、ムリムリムリ! 「ねぇ、センセ……っ!」オレは、モジモジ腰を揺らした。オシッコがまんするみたいに。センセの手から腰をかわして、 「センセさぁ、……しゃぶってあげよっか?」 「…………」 センセー、置き物みたいに硬直して。ノドボトケが、また「ゴクリ」。 ヨレヨレゴムのダサいパンツ見られるくらいなら、センセの苦くて濃いヤツをゴックンさせられた方が「まし」だってば。イクときのセンセ、すごく切なげで、色っぽくて。スキだし。 だって、ほら、さっきからセンセ、グリグリ押しつけてくるんだもん。カチカチになったズボンの前を。オレのオナカに。キュウクツで苦しいっしょ? もう。お泊まりの話しただけで、こんなんなっちゃうんだから。センセって、ホント、ケダモノ。でも、オレ、ケダモノになったセンセのちんちん、大スキだから、 「しゃぶりたい、オレ。センセの」 ……オレの口ん中でイカセてあげたいの。オレの口ん中で、センセのが「ビクビクッ」てふるえてハジケるのを感じたいんだ。 ほら、センセ。ケヤキの幹にもたれてよ。じっとしてて、ね? 「こぐまちゃん……っ」 切ない声でオレの名前を呼ぶの。それ、好き。 「もっと、呼んで……」 オレは、センセの足元にしゃがみ込んで。落ち葉の上にヒザまづいて。目の前のベルトを外す。手際よく。ジッパーを降ろすときは、でも、ちょっとユックリ。ジラシてあげるんだ。その方が、コーフンするっしょ、センセ? 「こぐまちゃん……」 「センセ……スゴい」 大人の男のひとのって。やっぱり、迫力が違う。ビックリ箱みたいに突き出してくるんだもん。タイトなボクサーパンツをパツパツに張りつめさせて。ムッと鼻先につく匂い。キライじゃないよ。オスの匂い。オレに欲情してギラギラしてる、ケダモノの匂い。待ってて。今すぐジャマな布を脱がせて、ラクにしてあげる。 「センセ、こんなカッコで。寒いっしょ?」 この時期はカラッ風吹いてきてるし。ちぢこまっちゃうよね、ちんちん…… 「けど、だいじょぶだよ。……オレの口ん中、すっごくアッツイから」 「こぐまちゃんっ!」 センセがオレの頭を両手で抱え込んで。股間に引き寄せる。グイッと。乱暴に。 「んん……っぅんん」 髪の毛グシャグシャになっちゃう。けど、いいよ。オオゲサに顔をしかめてやるけど。ホントは好きなんだ、ちょっと乱暴にされるの。ムリヤリされてる感じ。ゾクゾクするから。 「こぐまちゃん……こぐまちゃん……」 とりつかれたみたいにセンセはうめく。ガチガチにコリ固まったセンセのオス。パンツの上からでも、湯気が出そうなくらいにムレて。 「こぐまちゃん……こぐまちゃん……こぐまちゃん……こぐまちゃん……っ」 アセんないで。ちゃんと、しゃぶってあげるから。オレの舌で。ジカに。今すぐ…… めいっぱい「あーん」って唇を開いたとき。そう、まさしく。そんときだった。 ―――ガサガサッ……と。緑地広場を囲む常緑樹の垣根がザワめく音がした。 ギョッとして振り返ったら。おもっきし真っ直ぐ目が合ってしまった。 生い茂った生け垣の上にのぞいた、マヌケ顔。 「ガクゼンとした表情」ってのを分かりやすく表現するなら、まさしく、これだ。かなり理想的なサンプルだと思う。 「ごごごごめんなさい……ぼぼぼぼ僕、ななな何も見てないですぅーっ!」 オペラ歌手も顔負けなカン高いウラ声で語尾をハネ上げて。オレとおんなじブレザー姿のデバガメ野郎は、フラフラとよろめきながらキビスを返して中等部の校舎に向かって逃げ去った。 両手で股間をおさえて、なおかつ前かがみの不自然なカッコをしながらも、素晴らしく敏捷なダッシュを披露して。
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