第1章 覚醒編(ショタ期)

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隠れんぼの最初のオニは、仙台の、4番目のおばさんちのカズくんで。 カズくんは、両手で目を覆って、太いナンテンの床柱に顔を押し付けると、 「いーっち、にーい、さーん……」おもむろに数え出した。 本家のマゴムスメは、ここでもブーたれた。 「数え方が早すぎるもん、カズ兄ちゃん」 カズくんは、顔を隠したまま黙り込んでから、また 「しぃぃぃーぃぃぃ、……ごぉぉぉぉー、……ろぉぉぉぉぉーぉぉぉぉっくぅぅぅ……」って、今度は極端なスローテンポでカウントを再開した。 子供たちは、いっせいに障子を開け放して、わらわらと廊下に飛び出した。 あわてて後に続こうとしたオレは、キイっちゃんに肩をおさえられた。キイっちゃんは、唇に人差し指を当てて「しぃーっ」と合図しながら、オレの手を引っ張って、床の間の真横の押入れのフスマをそーっと開けた。 押し入れの下の段には布団がギュウギュウに詰めてあった。キイっちゃんは、オレのワキの下に両手を入れてヒョイッと持ち上げて、オレを上の段に乗せた。敷板一面に客用の座布団が3枚づつくらい重ねて並べてある。その上に、オレは体を丸めてしゃがみ込んだ。痩せ型で背の高いキイっちゃんも、身軽にオレの傍にピョンと飛び乗ると、音もなく静かにフスマを閉めた。押入れは真っ暗になった。 押入れの中に充満した空気は乾いていて、ひどくヒンヤリしていた。けど、オレがブルッと身震いしたのは、カビの匂いのする古いフスマ戸をはさんだすぐ外で、オニが間の抜けた拍子で数を数えてる、その声がやたらとハッキリと鮮明に耳に届くから。 「さんじゅうごぉぉぉー、さんじゅうろくぅぅぅー、さんじゅうしちぃーぃぃぃぃぃ……」 オニのすぐ近くに隠れ潜んでるスリルにワクワクして。思わず武者震いが出たんだ。 キイっちゃんは、オレを後ろから引き寄せて、開いた足の間にオレの体をはさみこむみたいに抱え込んで。 「寒い? 大丈夫?」と、小さい声で聞いてきた。キイっちゃんの声は、カツゼツが良くてサラサラしてる。 年末にトコヤさんに連れていかれたばかりだったからウブ毛をスッキリ剃り上げられて心細くなってるウナジに、キイっちゃんの唇が少しかすった。あったかい息が耳の後ろを撫でて、くすぐったくて。余計にブルルッと震えあがった。 キイっちゃんは「しぃーっ」と押し殺した息をまた耳たぶに吹きかけてきた。 「ろくじゅうしっちぃぃー、ろくじゅうはっちぃぃー……」オニのカウントは、少しづつ調子を早めてきたみたい。つられるみたいにオレの心臓も早くなる。「ドキドキ」ってゆうより「バクバク」?……ううん「バックンバックン!」って感じ。 キイっちゃんは、沈黙を破らせないためのプレッシャーをかけるみたいに、オレをギュウッと抱き締めた。背中から、両腕ごと。身動きできないくらいに。 「ななじゅっにぃぃー、ななじゅっさんー、ななじゅっしぃぃー……」 妙な節まわしを導入して、さらにアップテンポになるオニの声。 必死に息をひそめて隠れてるオレの緊張感も、どんどん倍増してくんだけど。キイっちゃんの両腕は、その緊張感ごとオレを抱きかかえてくれてるみたいで。絶対的な安心感がオレを包みこんでる。ドキドキハラハラがエキサイトするほど、逆に、ゆるぎなさを増す……キイっちゃんの体温の居心地の良さ。 「ななじゅはっちー、ななじゅっくぅー……」 薄っぺらいフスマごしの声が、だんだん遠ざかっていく錯覚を覚えた。 キイっちゃんの体にもたれてるうちに、すっかりリラックスして。緊張感も遠ざかって。 「セイちゃん、眠くなっちゃったんだ?」 キイっちゃんが、また耳たぶをくすぐった。かすれた小さい声で。 細くてスベスベした指が、オレの髪を優しく梳いた。さすがに小学生にもなると、オヤジやオフクロにムヤミに頭を撫で回してもらう機会もめっきり減ってたので。無条件に「いい子いい子」と慈しんでもらえるってゆうか。そういう感じ、久しぶりだったから。無邪気に甘ったれたい衝動がヤミクモにわきあがって。オレは、キイっちゃんの手に自分の頭を押し付けた。もっともっと、いっぱい撫で回してよ……って。 「猫みたい、セイちゃん」 キイっちゃんは、つぶやいた。 「猫みたいに、可愛い」 オレの髪を梳いていた手をすべらせてホッペタのふくらみをプニプニといじくりまくって。首筋から肩から胸から太股まで、手当たり次第に撫でまくった。本物の猫とじゃれまくるみたいに。 オレも、本物の猫になった気分で、キイっちゃんのナデナデにウットリと目を閉じて。それこそノドをゴロゴロ鳴らさんばかりに。ちょっとした陶酔状態で。 キイっちゃんの手が、いつの間にかオレのスウェットのズボンをズリ下ろして、お正月でおろしたばかりの真新しい白ブリーフのウェストのゴムを伸ばしながら内側に入り込んできたときも、少しの違和感を感じる余裕もないくらい。キイっちゃんに甘ったれてた。
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