第1章 覚醒編(ショタ期)

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キイっちゃんはオレのアゴを片手でおさえて。角度を変えて唇を重ね合う。何度も。何度も。「ちゅっ」「ちゅっ」って。上唇と下唇が互い違いにカラミ合ってたのが、そのうちにタテヨコに交差して。キイっちゃんが横から覆いかぶさるみたいに体をひねって。引かれるみたいに、オレも首をひねる。外側に。キイっちゃんと真正面に唇がぶつかり合うように。キイっちゃんの舌を受け入れやすいように。もっと深く。もっとガンジガラメにカラミつけられるように。舌と舌が。 頭がボーッとする。身も心もフニャフニャにとろけてた、オレ。オレのブリーフの中をうごめくキイっちゃんの手は、その間も休むことを知らず、ずっと。ハチミツみたいな甘ったるいキスでカンペキに陥落してたオレの脳ミソは、同時進行で行われてるちんちんへのオイタも快感の要素の一因なんだと、あっさりカンチガイしたらしい。 決定的だった。オレがオトコ相手にしか性的な興味を覚えなくなったのは、この強烈な幼少期のトラウマのせいだ。 もっとも、まだセーシを生み出すスベを知らなかった当時のオレのちんちんは、海綿体にひとりでに血潮がタギるばかりで。その衝動を吐き出すスキルはなかったので。半ダチになった皮かむりの先っぽから、サキバシリだかオシッコだか分からない粘り気のない雫が少しこぼれただけだった。 そのとき、ヘビーオンスの硬いジーパンで抑えつけられてた「キイっちゃん自身」がどんな状況になってたのかは知らない。 広い母屋と離れに加えて、納戸蔵にまで分散して隠れまくったイトコたちを探すのに早々に嫌気がさしたカズくんが、いじけてワンワン泣きながら廊下を走り回ったので。隠れんぼは1セットなかばで中断してしまったし。 キイっちゃんは、オレをダッコして、黙って押入れの上の段から飛び降りた。 明るい室内に出ると、一瞬で夢からさめたような気分になった。ほら……朝方、夢とウツツのボーダーラインをフラフラまどろんで布団の中をゴロゴロしてると、急に目覚ましが鳴って意識を叩き起こされるみたいな。そんときの感じに似てる。一秒前の夢の記憶があっちゅー間に消えちゃうんだ。きれいサッパリ。あの、シラジラした感覚。もしかして、オレのその幼少期のトラウマってのも、オレ自身が頭ん中で勝手に捏造した記憶……押入れの中のアンニュイな暗闇の空気が見せた白昼夢みたいなもんだったんじゃないか、って。高校生になった今でも、ときどき思うもん。ホントに現実にあったデキゴトだったんだろうか?……って。 だって、キイっちゃん、何もなかったみたいな涼しい顔で。クッキリした二重の三白眼は、いつもどおり、さも「利発げ」で。 興ざめした他のイトコたちも、母屋と離れと納戸蔵のアチコチの隠れ場所からダラダラと床の間に戻ってきて、 「じゃあ、お外で雪だるまでも作ろうか? うんと大っきいの」 という郡山のおじさんちのシオリちゃんの、お姉さんぶった発言にノッた。満場一致で。 ううん、違うや。キイっちゃんは、そこでリタイヤしたんだ。なんせ、目前に高校入試をひかえる受験生だったから。たぶん、勉強を理由に客間に下がったんだろう。覚えてないけど。 けど、シオリちゃんのテンションがイッキに下がったのは覚えてる。シオリちゃんは小学校の年長さんで、髪の長いオシトヤカな感じの美少女だった。 オレのクチからゆうのもナンだけど、基本、ウチの身内は美形ぞろいだと、周りのヒトからも良く言われる。 なんでも、昔、奥州の藤原ナンタラの元に身を寄せてたミナモトノヨシツネが、地元の美女にヒトメボレして、ヒソカにゴラクインを産み落とさせたってのが、我が家のルーツだとかで。オヤジいわく、ミナモトノヨシツネってのは、カンペキな美少女に変装してベンケイを退治したって逸話のあるくらい超美形だったそうで。だから、そんな伝説的なイケメンと絶世の美女の血筋を引く我が家系は、タグイまれな美形遺伝子がレンメンと現代にまで受け継がれてるって。オヤジはシャアシャアとホザく。 けど、実際のヨシツネは、出っ歯で猫背のサエないチビだったっていうウワサをこないだテレビでやってた。歴史物のバラエティ番組で。 オヤジの話は、イマイチ、マユツバだ。
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