第1章 覚醒編(ショタ期)

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「キイっちゃんがね。ホッペタにチュッって……したの。ここだけの内緒だよ。ねぇ、セイちゃんってば。起きてんでしょ?」 「ん……ぅ」 睡魔に侵食された声帯は、単純な肯定の意思を発しようとしただけでフリーズしてしまった。なので、オレは、ヌクヌクの毛布とブカブカのハンテンの内側にカタツムリみたいに丸くなってうずくまった格好のまま、座椅子のヒジ掛けに伏せた頭をまたコクンと動かしてみせた。 座椅子の前に正座して、上体を屈めてオレを見下ろしてるらしいシオリちゃんの気配が、いっそう近くに寄ってくる。シオリちゃんのサラサラの長い髪がスダレみたいに垂れかかってオレの頭のまわりに影を作るのが、厚手の毛布とハンテンと閉じたマブタを通しても感じられるくらい。 「でも、ホントはね。ホントにホントに、絶対に秘密、だけどね。セイちゃんにだけ、話すんだからね」 オレは、また『コクン』と頭を揺らす。 シオリちゃんのささやき声は、ちょっと震えてきて。秘密を打ち明ける恐れってよりも、隠しきれない興奮をムリヤリおさえてるみたいな。息つぎのブランクが短くなって。 「ホッペタって、言うよか。クチビルの、ハジッコの、ところ。チュッって、したのは。だからね。正確には、口と、口で、チュッって。したの。セイちゃん、あのね。だから、あれ、ファーストキス、だったの」 スタッカート効かせすぎ。聞いてるコッチまで息がハァハァ上がってきそう。 「あたしのね、ファーストキス。キイっちゃんが、したの。口と口の、キス。あたしに、キスしたの。キイっちゃんが。ねえ、セイちゃん。絶対に、絶対に、絶-っ対に、内緒ね」 わかったってば……『コクン』。 「ねぇ、セイちゃん。キイっちゃんさぁ……」 シオリちゃんは、ここでまた「はぁー」とタメ息。さっきのタメ息より、もっとオオゲサで。なんか、わざとらしい。 「……第一志望の高校に落っこちたのって、もしかして、あたしのせいかなぁ?」 え? 意味わかんないよ、シオリちゃん。 「だって。キイっちゃん、勉強家で。マジメだったのに。あんなこと、したりしたから。キス、なんて。なんか。そういうのって。だって、ね」 「…………?」 「キイっちゃん。エッチに、……なっちゃったから。それで、受験勉強ダメになっちゃったのかなぁ、って。あたし。あたしのせいかも」 「…………」 「セイちゃん。ダメだよ、絶対。誰にも言っちゃ。こんな話。言ったら、あたし、死んじゃうから」 「ん……」 いわないよ、シオリちゃん。だれにも……『コクン』。 あの日。シオリちゃんが急に大人の女の人みたいに見えたのは、シオリちゃんが「とっとき」のアクセサリーで着飾ってたからなんだ、……内緒の『ヒメゴト』っていうアクセサリー。なんちゃってね。なにゆってんの、オレ。 だけど。ねぇ、シオリちゃん。 だけどもね。オレのひみつの方が、もっと、すっごく「とっとき」なんだよ。だって、ね。だって、キイっちゃんってば。オレには、もっと。シオリちゃんの「ふぁーすときす」なんかよりか、もっと、もっと……すっごいこと。しちゃったんだよ。 ねぇ、シオリちゃん。オレもシオリちゃんにおしえてあげたいな、オレのひみつ。けど、ゆったら、シオリちゃん、ちょっと、くやしいきぶんになるよね。オレのこと、きらいになっちゃうかもしんない。なんか、そんな気がすんだ、オレ。それに、「とっとき」のひみつだから。やっぱり、ゆわない。キイっちゃんとオレの「とっとき」だもん。 ねぇ、シオリちゃん。もし、ホントに、キイっちゃんのコーコージュケンがダメだったのが、キイっちゃんがエッチになっちゃったせいなんなら、それ、シオリちゃんはわるくないよ。きっと。キイっちゃんのコーコージュケンがダメんなったのは、オレのせいだよ。きっと。 だって、キイっちゃん、シオリちゃんにしたのより、もっと、もっと、もーっとエッチなチュウしたもん。オレに。 ベロとベロをくっつけて。チュウチュウすったんだよ、キイっちゃんが。オレのベロをチュウチュウって。ツバだってグチャグチャに。キイっちゃんのツバとオレのツバが。まざっちゃったんだよ。それくらいチュウ、すごかったんだよ。 ビックリした、オレ。だけども、きもちよかった。あたまん中ボーッとしてね。からだが、うかび上がりそうだったん。ふわふわーって。そんで、とろとろーって。からだじゅうが、とけちゃいそうになったん。それでね。キイっちゃん、オレのちんちんをグニグニって。いじくりまわして。すごくエッチだったもん。キイっちゃんね…… 「はぁーっ……」 ヒトリヨガリなヒロインの、何度目かの深いタメ息。 その直後、座敷をひと部屋はさんだ向こうの居間にいる大人たちのひときわ大きなハシャギ声が、廊下を渡って聞こえてきた。 同時に、テレビのボリュームも急に大きくなった。『ハッピーニューイヤー!!』チマタの女のコたちに大人気の男性アイドルたちがいっせいにステージ上で叫ぶと、観客の嬌声と喝采がワーキャーとわき起こる。お約束のコールアンドレスポンスで。いつの間にか年が明けていたことに気付いた。
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