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駄菓子屋夫婦のお願い事
大和という名の幼い頃の弟はかわいかった。
家族贔屓を除いても、かわいかった。
目がクリクリで、小さくて、よく笑い愛嬌があった。
ご近所さんの評判も良かったが、特に駄菓子屋の中年夫婦は、あきらかに他の子どもと区別するレベルの愛で方だった。
姉弟で駄菓子屋に買い物に行っても、弟にだけいつもおまけが入っていた。
「次は、一人でおいでね。」
帰り際に、必ず弟にそう声をかけていた。
ある日、正装をした駄菓子屋の夫婦がやってきた。
応接室に通され、両親と祖母と何やら話しこんでいた。
時折、母の叫ぶ声が聞こえてきた。
駄菓子屋の夫婦が帰った後の家は大変だった。
「何を考えてあんなお願いしてくるんですか!」
母親は大声で怒っていた。
「あの場ではっきりお断りしてるのに、お義母さんはどういうつもりで止められたんですか!」
「そんなけんもほろろに突き放すなんてかわいそうでしょう。
お子さんできなくてかわいそうなご夫婦なのに。」
「それとこれとは別でしょ!変に期待を持たせるより、こういうことはその場ではっきりさせませんと。」
どうやら子ができない駄菓子屋の夫婦が、突然、子供を養子縁組させてほしいとお願いしてきたようだった。
「それに、若いんだからまた産めばいいとか、失礼な。そういうことじゃないでしょ!」
「…そうね。それに、よりにもよって大和ちゃんが欲しいってねぇ。菜緒ちゃんならまだしも。」
「そういう問題じゃないです!」
母親はすぐに否定した。
だが、私は二重にショックを受けたのを覚えている。
まず、養子縁組という行為はよくわからなかったが、駄菓子屋の夫婦に私は”選ばれなかった”というショック。
そして祖母は私なら誰かにあげても良いと思っているのだとわかったショック。
ただ家を継ぐ長男として弟は手放せないという意味だったのかもしれないが、そんなことはわからない幼い私にとっては、その発言がすべてだった。
祖母は私をあまり好きではないのかもしれないという疑念を持ちはじめる出来事だった。
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