由来

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 倉庫に着き、鍵をあけてドアノブを回す。ギギギと音をたてながらノブを回して手前に引くが、なかなかドアが開かない。 「開けましょうか?」と後ろから五百蔵さんに声をかけられる。 「いいえ、だいじょうぶ、ですっ!」  と勢いよく腕を引くと、ドアがゆっくり開いた。このままだと、いつかドアが壊れるか人が閉じ込められるだらう。早めに修理をお願いしないと。  入り口の横にあるスイッチを押して電気をつける。段ボールなどが雑然と置かれた庫内は、埃と湿気の臭いが充満していた。ここには窓がなく換気扇もついていないので、この臭いの中で作業するのはいつも少し辛い。 「夏祭りの出し物の小物が必要と聞いていますが、それ以外は大丈夫ですか」 「菊田さんからは、<時代劇グッズ>と書かれた箱があるはずだから、それを取ってきてほしいと言われたので、たぶん大丈夫だと思います」  段ボールの側面にはそれぞれ何が入っているが書かれているので、それを頼りに探すしかない。段ボールだけなら一つずつ動かしていけばいいのだが、その周りにはどこで使っていたのか分からないテーブルや、背もたれの破れた椅子なども置かれている。そういった余計な物を片付けながら段ボールの山を漁っていると、ようやく目的のものが見つかった。ただそれは、私の身長ほど積みあがった段ボールの一番下に置かれていた。 「上に乗ってる物を退かすので、もう少し待ってください」 「いえ、僕がやりますんで。場所代わってもらえますか?」  五百蔵さんはしゃがみこんだかと思うと、一番下の段ボール以外全てを両手で抱えて持ち上げ隣に置いた。 「凄いですね」 「そうですか。普通だと思いますけど」  涼しい顔をしてお目当ての段ボールを手に伸ばす姿に、単純に驚かされた。段ボールを抱えた腕は思った以上に筋肉質で筋張っており、浮き出た血管は少しくすんだ青色をしていた。  世の中には男性の逞しい腕にときめく人もいるらしいが、私はそんな感情にはならない。  ただ、五百蔵さんのそれには、三次元のリアルをまざまざと見せつけられた感じがした。 「じゃあ、出ましょうか」  ノブを回し外に向かって押すがなかなか動かず、そのまま全体重をドアにかけるが全くびくともしない。何度も何度も力を加えるがうんともすんともいわない。思い切りノブを回すと、ガギンっと嫌な音をたてて外れてしまった。 「うそ、でしょ」  いつかドアが壊れるか人が閉じ込められるかどちらかが起こりそうだ、と考えていたが、さっそくドアは壊れ、私たちは閉じ込められてしまった。
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