現実

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 無事に仕事を終わらせ、帰る途中で寄ったコンビニでお菓子を物色していると、かばんの中でスマホが震えた。相手はお母さん。どうしたのかと思い、通話ボタンを押した。 「お母さん。どうしたの?」 『もしもし、八重子? 今何してるん?』 「コンビニで買い物」 『なるほど、外におるから標準語なんか。えらい使い分けしてるなぁ』 「で、なに?」 『そうそう、あんた、お見合いに興味ない?』 「は? なにそれ」 『晴彦さんの会社の後輩にあんたと同い年の独身の人がいるらしくてな。もしよかったら一回会ってみぃひんかなと思って』    電話口のお母さんはとてもウキウキした様子だ。    晴彦さんは、私のお姉ちゃんの夫、いわゆる義兄だ。そもそも、お見合い相手以前に、去年のお正月の帰省以来お姉ちゃん夫婦や両親にも会っていない。ときどき連絡は取りあってはいるが、お見合い話なんて初めて持ち掛けられた。 「いや、会わないし。っていうかお見合いとか興味ないから」 『そんなん言わんと。お母さん、相手さんの顔見せてもらったんやけど、なかなかのイケメンさんやったで』 「じゃあお母さんがお見合いすれば?」 『それは無理や。お母さんにはお父さんがいるもん、ぐふふ』   なにが、ぐふふ、だ。 「とにかくその話はナシだから。レジ並ぶから電話切るね。じゃ」    通話を切ってスマホをなおし、代わりに財布を出して会計待ちの列に並んだ。  コンビニから家に帰る道すがら、ぼんやりと空を眺める。夜空には薄黄色に輝く半月が浮かんでいて、まるでハルハルの髪のように美しかった。 「綺麗だな……はぁ」  ハルハルを思い浮かべると嫌でも同時に出てくる今日の五百蔵さんの言葉と顔。とんだ連想ゲームだ。  でも、少しだけ感じたことがある。それは、五百蔵さんは誰にも遠慮しない性格なのかもしれないということ。  私に対しても初島さんに対しても、別に間違ったことは言っていないし、意地悪を言っている風でもなかった。むしろ自分が見て感じたとこを、そのまま発言している感じで。  素直、といえば聞こえはいいが、無遠慮のほうがしっくりくる。   ――嫌なことは嫌って言った方がいいですよ 「言えたら苦労しないっての」  きっと当の本人は言いたいことを言ってきたのだろう。その上、ハルハルそっくりの見た目。色々と誤解を受けそうだ。本人はそんなことも気にしなさそうだけど。    もし、ハルハルそのものが現実世界にいたとして。五百蔵さんの言葉をそのまま言われたら、たぶん私の精神は無事ではすまないだろう。    そうなると、やはり推しは二次元に限るな、と改めて実感してしまう。 「昨日から始まったお花見イベント、全然できてないんだよなぁ。今日はいっちょ頑張りますか」  コンビニで買ったお菓子の入った袋を握りしめ、自宅へと急いだ。
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