母と姉と私

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 専用のコンテナに袋を捨て、すぐにお母さんに電話を掛けなおす。すると、すぐに『もしもし?』と出てくれた。 「もしもし? 何かあったの?」    スマホを握る手が汗でぬめる。 『え? ああ、ごめんごめん。さっき優愛(ゆあ)ちゃんが携帯電話で遊んでて、間違えてあんたに電話かけてたんよ。ねー、ゆあちゃんー』    電話の向こうにいるであろう孫に向かってデレデレだ。 「はあ、よかった。でも、いくら孫が可愛いからってこういうのは良くないから。電話された方はびっくりするんだからね」 『だからごめんって。ところであんた、こんな時間に電話かけてくるなんて。もしかして今日は休み?』 「仕事だよ。ちょっと抜けて電話してるだけ」 『そっか。いいタイミングやし、これもついでに言うとこうかな』 「ついで?」 『ほら、今朝のいうてたお見合いの人。あの人、来週晴彦さんと一緒に出張に行くらしいんやけど、そこがあんたの住んでるところから近いらしいんよ』    まさかとは思うが。 『あんたがこっちの帰ってくるのも、早くて次のお盆やろ? せっかく相手さんがそっちに行くんやし、時間作って会ってもらい。もちろんいきなり二人きりやと緊張するから、晴彦さんにも一緒に』 「……もしかして、それって決定事項なの?」 『相手さんにも、そのつもりでいてもらってるけど』 「いい加減にして! 何回もいらないって言ってるでしょう? どうして分かってくれないの!」 『でも、お母さんだってあんたのこと心配なんよ。いつまで経っても彼氏の一人も紹介してくれへんやんか。それにお姉ちゃんも、あの人ならいいっておススメしてくれた人やし』 「だからって、興味のない人間と会うほど私も暇じゃないの」 『興味あるかは一回会ってから判断したらええやん。ね、一回でいいから』  駄目だ、全然聞いてくれない。この人の耳には蓋じゃなくて鉄板が入ってる。  どうすれば伝わるのか考えていると、遠くから優愛ちゃんの笑い声が聞こえてきた。 「お姉ちゃん、そこにいるんだよね?」 『おるけど』 「代わって」 『はいはい。おねーちゃん、八重子が電話代わってって』  ごそごそと擦れる音の後、『もしもし?』とお姉ちゃんが出た。 「あのさ、最近ずっとお母さんがお見合いお見合いってうるさいんだけど」 『そうやねぇ。でもあの人いい感じの人やから、八重子も一回会ってみたらええやん』 「だから、そんな気はないんだってば」 『そうはいうけどな、あんたもエエ歳やろ? そろそろ相手見つけて、早めに子ども生んだ方がええよ。子育ては体力勝負やで』 「別に今は結婚も出産も望んでない。無理やり話を進められても本当に困るの」 『歳いったらそんなこと言ってられへんで。それに、女はとりあえず結婚しといた方がええよ。結婚してるあたしが言うてるんやから嘘じゃないのは分かるやろ』 「それ、本気で言ってる?」 『本気も本気よ。お母さんもあたしも、あんたに良かれと思ってやってることやねんで? ちょっとは素直に好意を受け取っとき』  私の中で何かがプツンと切れた。
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