16人が本棚に入れています
本棚に追加
専用のコンテナに袋を捨て、すぐにお母さんに電話を掛けなおす。すると、すぐに『もしもし?』と出てくれた。
「もしもし? 何かあったの?」
スマホを握る手が汗でぬめる。
『え? ああ、ごめんごめん。さっき優愛ちゃんが携帯電話で遊んでて、間違えてあんたに電話かけてたんよ。ねー、ゆあちゃんー』
電話の向こうにいるであろう孫に向かってデレデレだ。
「はあ、よかった。でも、いくら孫が可愛いからってこういうのは良くないから。電話された方はびっくりするんだからね」
『だからごめんって。ところであんた、こんな時間に電話かけてくるなんて。もしかして今日は休み?』
「仕事だよ。ちょっと抜けて電話してるだけ」
『そっか。いいタイミングやし、これもついでに言うとこうかな』
「ついで?」
『ほら、今朝のいうてたお見合いの人。あの人、来週晴彦さんと一緒に出張に行くらしいんやけど、そこがあんたの住んでるところから近いらしいんよ』
まさかとは思うが。
『あんたがこっちの帰ってくるのも、早くて次のお盆やろ? せっかく相手さんがそっちに行くんやし、時間作って会ってもらい。もちろんいきなり二人きりやと緊張するから、晴彦さんにも一緒に』
「……もしかして、それって決定事項なの?」
『相手さんにも、そのつもりでいてもらってるけど』
「いい加減にして! 何回もいらないって言ってるでしょう? どうして分かってくれないの!」
『でも、お母さんだってあんたのこと心配なんよ。いつまで経っても彼氏の一人も紹介してくれへんやんか。それにお姉ちゃんも、あの人ならいいっておススメしてくれた人やし』
「だからって、興味のない人間と会うほど私も暇じゃないの」
『興味あるかは一回会ってから判断したらええやん。ね、一回でいいから』
駄目だ、全然聞いてくれない。この人の耳には蓋じゃなくて鉄板が入ってる。
どうすれば伝わるのか考えていると、遠くから優愛ちゃんの笑い声が聞こえてきた。
「お姉ちゃん、そこにいるんだよね?」
『おるけど』
「代わって」
『はいはい。おねーちゃん、八重子が電話代わってって』
ごそごそと擦れる音の後、『もしもし?』とお姉ちゃんが出た。
「あのさ、最近ずっとお母さんがお見合いお見合いってうるさいんだけど」
『そうやねぇ。でもあの人いい感じの人やから、八重子も一回会ってみたらええやん』
「だから、そんな気はないんだってば」
『そうはいうけどな、あんたもエエ歳やろ? そろそろ相手見つけて、早めに子ども生んだ方がええよ。子育ては体力勝負やで』
「別に今は結婚も出産も望んでない。無理やり話を進められても本当に困るの」
『歳いったらそんなこと言ってられへんで。それに、女はとりあえず結婚しといた方がええよ。結婚してるあたしが言うてるんやから嘘じゃないのは分かるやろ』
「それ、本気で言ってる?」
『本気も本気よ。お母さんもあたしも、あんたに良かれと思ってやってることやねんで? ちょっとは素直に好意を受け取っとき』
私の中で何かがプツンと切れた。
最初のコメントを投稿しよう!