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由来
「ということで、掃除分担表は小森さんお願いね」
「はい」
「引換券の作成は上野さんで。数は去年と同じで大丈夫だから」
「分かりました」
事務長の指示を聞き、私と上野さんはそれぞれのデスクに戻った。
毎年恒例の施設夏祭りが来月に開催される。スーパーボールすくい、輪投げ、ボーリングなどの出店を職員が準備し、入所者の方々やその家族に参加してもらい、一緒に夏の思い出を作ってもらうのが目的だ。
どのようにするかは各部署に任されているが、ほぼ前年の内容に沿って準備をするので、材料さえ揃えば問題はない。
私たち事務の準備は、出店で遊ぶときに必要な引換券と夏祭り後に行う掃除の受持場分担票の作成。そして必要な掃除道具の用意だ。
当日は、受付と引換券の発行をして、たまに現れるちびっ子迷子の保護をするくらいで、他の部署より夏祭りを作り上げる過程は正直少ない。
それでもやはり、お祭りが近づいてくると、画用紙で作った提灯やうちわが施設内のあちこちに飾られたりするので、自然と心が躍る。
「今年の引換券はどんな感じにするんですか?」
上野さんの作る引換券は毎年可愛らしく、夏の風物詩や流行りのアニメなどのイラストを手描きしてくれる。
確か去年は某妖怪アニメのキャラクターたちが浴衣やはっぴを着ているものだった。
「まだ決めていませんが。小森さんは夏といえば何を思い浮かべますか?」
「私ですか? そうですね……」
真っ先に浮かんだのは、昨日クリアしたばかりの夏イベントのハルハルだ。
ユウジロウと一緒に廃墟の中を肩を寄せ合って歩いているシーンでは、背景にはメンバーたちがお化け役として登場していて、全てのシュペルブファンには嬉しいスチルになっていた。
ハルハルの黒の浴衣姿、裾からちらりと覗く筋肉のついたふくらはぎ、そして怖さのあまりうるんだ涙目。
思い出すだけで無性にガッツポーズをしたくなる。
「小森さん?」
「あ、ああ、ごめんなさい。そうですね、夏といえば肝試しでしょうか」
「へぇ、もしかして怪談話とか好きなんですか?」
「いや、どちらかというと苦手です」
「苦手なのに肝試し、ですか」
「まぁ、あれです、思いついたことを言ってみただけなので」
あはは、と空笑いを付け足し、私は自分の作業に戻った。
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