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三次元
月曜日。出勤するとすでに事務所には課長が来ていた。
いつもなら朝礼ギリギリに来ているのに。こういうときは何かある。しかも面倒なことだ。
警戒しながら自分のデスクで仕事の準備をしていると、案の定、課長に「小森さん、ちょっと」と呼ばれた。
私は、先週片付けた仕事の中で不備を指摘されそうなものを頭の中でピックアップしながら、課長の元へ向かった。
「おはようございます。何かありましたか」
「いやね、ちょっとお願いがあって。本当は先週の内に言うべきだったんだけど、うっかりしていてね」
またですか、と言いたくなったがここは我慢。どうやら私のミスじゃないみたいだし、何よりこの人のうっかりなんていつものこと。
「なんでしょうか」
「来月から産休に入る山田さんの代わりに、病院から一人リハビリの先生が異動してくることになってたでしょ。実はその人、急遽今日からうちに来ることになってね」
「え?」
「山田さん体調が良くないらしくてね。一か月前倒しで今日から産休にしてほしいって言われてたんだよ。いやあ、小森くんに言うのをすっかり忘れてたよ、ははは!」
おいおいおいおい、マジですか、課長よ。ははは、じゃないよ。笑えないよ!
「悪いが、準備をしておいてくれないか。本人には出勤したらまずここに来るように言ってあるから」
そう言って課長は給湯室の方に消えていった。
時計を確認すると、8時ちょうど。始業開始の8時45分まで時間はあるが、出勤初日だから早めに来る可能性が高い。休みの間に届いた郵便物のチェックが終わってないけど、それはもうすぐ出勤するはずの他の職員にお任せしよう。っていうか、新しい先生って何て名前だっけ。
私はキャビネットの中から職員ファイルを取り出し、異動者リストを確認した。
名前は五百蔵咲也。男性。現住所はうちの施設から遠いのか。通勤手段の確認をしないと。制服は持参してくるはずだけど、念のために予備がいるかも。更衣室の空きロッカーは清掃チェックが出来てから鍵を渡そう。名札作らないと。名刺もいるだろうし急いで発注だな。
必要なものを用意するために事務所の中を歩き回っていると、「すみません」と声をかけられた。
聞き覚えのない若い男の人の声。もしかして、例の人だろうか。
「はい、どうされました、か……」
声の主を確認した途端、私は固まった。
「あの、今日から異動になった五百蔵ですけど」
そこには、私の最愛の推し、ハルハルそっくりの男が立っていた。
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