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私は茶碗蒸しと、赤だしと、うどんを少しもらった。時間をかけてゆっくりと食べた。美味しい。出汁の味が絶妙だ。
ユキオさんとハチさんが、どんどん飲んでしまって、いつものように阪神タイガースの話ばかりしている。
「だからよう、バースがいなきゃダメなんだよ」
ハチさんの声が一際大きくなる。ユキオさんは大体うなづく係だ。
女将さんが一息ついたところで、私の隣に座った。
「今日はありがとうございます。こんなにまでして、お店まで貸切にしていただいて。最高の思い出です」私はいった。
「何言ってんの。思い出なんかこれからもっともっと、作ったらいいねん」
「いや、まあそうなんですけどね」
「そんなに悪いの?」女将さんがこっそり耳元で聞く。
「お医者さんは、はっきりしたことは言わなかったですけど、私はあと一年ぐらいかなって」私も小声でヒソヒソ話す。
「えっ…ほんまに…そんなに…」
女将さんは目を閉じて絶句して、顔を上に向けた
「とりあえずの退院だと思ってます。だからあんまりみんなに会いたくなくて」
「それなら余計みんなに会いたくならない?」
「心配かけるのも嫌だし、やつれたこんなみっともない姿を見られるのは、やっぱり気が引けます」
「そっかあ…私にできることがあったら、なんでも言ってよ。力になるからさ。ユキオさんの晩御飯ぐらい、うちでしばらく面倒見てもいいし」
「ありがとうございます。全く動けなくなったら、お願いします。まだ動けるうちは、自分のことは自分でやりたいんです」
「うん、わかった。まだ、やりたいことがあるんだね。それはいいことだよね。とにかく応援するから、頑張ってね」
女将さんが手を握ってくれた。あったかい。なんてあったかいのだろう。
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