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ん……? うん。分かってる。うん、……迷惑だよね、すっごく。 ごめん。分かってるってば。でも、帰らないからね、僕。……帰れないし。 だって先生、気付いてる? 終電、もう過ぎちゃったんだ、ほんのちょっと前に……。時計見てごらんよ、……ね? ズル賢い? 人聞き悪いなぁ。クレバーな策略家とでも言ってよ。 とにかくさ、実際問題。 こんな純情可憐な白皙の美少年を、深夜の路頭に迷わせる気なの、先生? イタイケな教え子が、欲求不満の痴女だのハッテン場のオジサンだのにつかまって、イタズラされちゃってもいいの? あ、……やっと笑い声を聞かせてくれたね、先生。 うん、……うん。……分かったよ、先生。 タクシーが着くまでの間だけで、いい。だから、ドアを開けて、……ね? うん、……ありがとう。先生……。 ああ、……やっと入れた。 先生の部屋……。 想像してたとおり、キチンと片付いてる……少し殺風景だけど。 ダメ、まだ、……タクシー呼ぶのは、もうちょっと待ってよ。 ほんのちょっとだけ、……ソファに座って、話そうよ、ね? そう、そうだよ……僕の目を見て……よーく見て、ね? ……だんだん気持ちが落ち着いてきた、でしょ? ねぇ、先生。カーテン開けていいよね? だってほら、こんなにゴージャスな満月。 月明かりに浮かぶ先生の横顔、すごくキレイだから……。 「年増(トシマ)」だなんて。そんなふうに自分を蔑むのやめてよ、先生。 先生はキレイだよ。とびっきりキレイで、若くて、それに、まだ無垢で……。 ……そんなに怒らないでよ。ああもう、……また、口がスベっちゃったかな? ごめん。だって、僕には分かっちゃうんだ。先生が、まだ手つかずの無垢なツボミだってこと……。 どうしてさ? 男を知らないからって、恥ずかしがることない。先生はまだ、そんなに、そんなに若いんだからさ。 違う、違うよ、違うってば。からかってなんかないってば。断じて。そんなことない。絶対に。 僕は本気だ。本気で、先生の初めての男になりたい。 いや、……最初で最後の男になりたいんだ。 未来永劫、誓うよ、この満月に。 うん、そうだよ。そう、そのまま、……僕の目を見つめていてごらん。ずっと見つめて……。 吸い込まれそう……? 僕の瞳に映った月の光に……? ふふふ……可愛いな、先生。とろけそうな顔してる。 シャンプーのいい匂いがするね、先生。 お風呂上がりなのに、わざわざスーツに着替えたんだ? ……そっか、僕が押し掛けてきたせいだよね。 パジャマ姿、見たかったのに。さすがにガードかたいね。 少し湿ってるよ。ちゃんと乾かさなくていいの? ……いいじゃない。せめて髪の毛くらい触らせてよ、ね? ああ、……ステキだ、先生。 僕、いつだってドキドキしながら見とれてたんだから。 教壇に立った先生が、黒板の上の方に顔を振り向けたとき、肩に乗っていた黒髪の束がサラサラッと崩れて滑り落ちると、繊細な白い首があらわになるんだ……ほら、こんなふうに、……しっとりとした肌に浮き上がる細いスジ……この控え目な淡い陰影が、かえって僕を挑発するんだ……いつだって。 我を忘れて抱きすくめて、唇を押し当てたくなって……たまらなかったんだ。 ずっと、死にもの狂いで衝動をこらえてたんだよ、僕……。 だから、ねぇ……先生、先生……。
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