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ねぇ、先生。お願い、このドアを開けて。話を聞いてよ。僕の目を見て……。
からかってなんかない。僕はダンゼン本気なんだから。
先生のことが好きで好きでたまらないんだ。
カラダ中の血がカラカラに干上がりそうなほど、恋い焦がれてる。
アタマのテッペンからツマ先まで微塵も残さずスミズミの血流が一瞬で煮えたぎって沸騰してしまいそうに、狂おしく熱いんだよ。
先生を想うだけで。全身が焼け焦げて灰になってボロボロと崩れ落ちてしまいそう……。
こんな感覚、生まれて初めてなんだ。正真正銘、初恋なんだ。
……そうだよね、うん。……ごめん。非常識なのは分かってるよ。
学校から帰る先生の後をつけて、こんな夜更けにアパートの部屋の前まで押し掛けるなんて。まるっきり僕、ストーカーだもんね。危ないヤツだよね。ごめん。ごめんなさい。
でも、だって、先生……近頃、僕のことを避けてるでしょ?
以前は、放課後の教室で何度も2人っきり、長い時間……熱心に話しかけてくれたのに……。
え? まぎらわしい言い方しないで、……って?
担任教師が自分のクラスの生徒の進路を熱心に指導するのは当然……?
まあね。そりゃ、たしかに。
でもさ、その進路指導の面談がキッカケで、僕は先生に恋をしたんだもの。
いいじゃない、ちょっとくらいロマンチックなニュアンス匂わせてみたって。
そもそも、僕は、進路の心配なんかしてくれなくていいって言ったよね? 放っておいてくれ、って。
自分の身の振り方なんて、自分だけのチカラでどうにでもできるんだもの、僕は。
なんなら、先生よりずっと世間を知ってる。世故に長けてる、っていうのかな? ……手前ミソかもしれないけどさ。
なのに、先生ったら、「ナマイキばかり言わないの。真剣に将来を考えなさい!」だなんて。
いつもはおっとりした優しい顔を、真っ赤に上気させて、僕を叱り飛ばしたよね。
ふっくらしたキレイなクチビルをキュッと噛みしめて僕をニラミ上げてたけど。でも、先生、……怒ってるっていうより、悲しそうに見えたよ、あの時。
一人息子が高校卒業を半年後に控えているのに、仕事のカラミで東欧に駐在している父親は、電話1本もつながらないばかりか、先生が個人で出したエアメールにもEメールにもナシのツブテで、……だから先生、僕に同情してくれたんでしょ? 無責任なシングルファーザーのせいで肉親の愛情に飢えている孤独な少年、……きっと、そんな風に思ったんでしょ、僕のこと?
僕が卒業後の進路にマジメに取り組もうとしないのは、子供をかえりみないワーカホリックの父親を恨んで自暴自棄になっているから……そう思ったんだよね、きっと。
ぶっちゃけ、それって、かなり見当ちがいなんだけど。でも、先生の悲しそうな目で見つめられて、グッときちゃったんだ、僕。心臓のド真ん中にピカピカの銀のクサビでも撃ち込まれたみたいに。ギュウッ……って、胸がしめつけられた。
これが恋なんだって、……その瞬間ハッキリ自覚できたよ。
先生、ねぇ。……ねぇってば、先生。
こうやっていつまでも僕が部屋の前に突っ立ってたら、ご近所で良くないウワサをたてられちゃうんじゃない?
ああ、……違うよ、違うってば。……脅すつもりなんかないってば。
けど、……ごめん。僕も必死なんだ。先生。だから、もっと大きな音をたててドアを叩いちゃうかもよ、このままだと。
お願い。お願いだよ、先生。先生が自分から招き入れてくれなけりゃ、僕は近付けやしないんだ、……先生の心に。
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