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さらなる興奮を目指して
パチンコ屋に戻ってきた俺達は、ついさっきのリベンジに燃えていた。財布の中から、お札を取り出し、それぞれ手に一万円札を握りしめた。まずは様子見程度の金額だ。
「大体、一時間後に集合だ。健闘を祈る」
俺の合図でそれぞれお気に入りの台へと別れていく。
当たりそうな台を経験と感で選び、早速始めることにした。
出だしは順調ではなかったが、次第に調子は上がっていき、俺は一万円から一万五千円に増やすことができた。
ヨシオは二万円となり、ノブオは差し引きゼロの一万円に終わった。
百万円を何倍にも増やす計画の滑り出しとしては、十分な結果だった。
ただ、ノブオは少し落ち込んでいる様子だった。それが気がかりになった俺は柄にもなく、彼を励ますことに決めた。
「おい、ノブオ。一万円が一万円になったってことは、つまり負けてないってことだ。それは勝ちと一緒だ。今日は全員勝ちさ。それに無料で楽しめたってことだろ。これは優勝だぜ」
良くも悪くも影響されやすいノブオはすぐに上機嫌になった。手間のかからない、全く憎めないやつだな。ちくしょう。
それから俺達は空腹を満たすために、増えたお金で居酒屋に足を運んだ。
合わせて一万五千円の勝ちだった俺達は、居酒屋では値段を気にせずに、好きなものが注文できる身分となっていた。
唐揚げ、焼き鳥、刺し身、生ビール。
俺達は、食欲の赴くままに料理を注文した。
たとえギャンブルで負け、辛い目にあったとしても、この一瞬が全てを報われたものにしてくれる。この至福のひとときのためにギャンブルをしていると言っても過言ではない。
現代人は働きすぎなんだ。人ってのはもっと野性的で、その場しのぎの生活をしている方が幸せを感じられる。
俺はギャンブルを通してこの持論が確信へと変わっていた。
ノブオが口いっぱいに唐揚げを頬張り、それをビールで流し込む。それから、ろれつが回らなくなりながら言った。
「もうずっと、この生活でいいんじゃないかな?百万円を元手に、増えた分で生活していく。最高じゃないかー」
酒に強いヨシオは、俺達の二倍は飲んでいるにも関わらず、全く酔っていなかった。
「そういう訳にもいかない。早いうちに、百万円は警察に届けるべきだ」
俺は肉の刺さった焼き鳥の串を、箸代わりにして唐揚げを頬張る。割り箸と間違えていたのを途中で気づいたがどうでも良かった。
「じゃあ、一気に稼がないとな。もっとギャンブルしよう」
「どういうことだ?」
ヨシオが首を傾げた。
「よし、この天才ヒロシ様が、直々に計画の全貌を教えてあげよう」
ニタリと不敵な笑みを浮かべる二人、俺は酒の影響もあってかすっかり上機
嫌になっていた。
「パチンコでちまちま増やすより、もっと大きな賭けに出よう。投資って言うのは、元手が多いほど儲かるってものだ。俺達は百万円の元手を活かせていない」
気がつくとヨシオも酔が回っていた。ノブオに至っては、完全に爆睡している。
「こいつ、ギャンブルを投資って言いやがったぞ。ヒロシも遂に来るとこまで来たってことか。わっはっはー。で、早く結論を教えてくれ」
俺は残りのビールを全て飲み干した。
「次は競馬にしよう。万馬券だ」
ヨシオは目を大きくまん丸にしてから、手を差し出した。俺もそれに応じて、俺達は熱い握手を交わした。
そして、ヨシオは一言。
「その作戦、のった」
こうして俺達は、次なるステージに足を踏み入れることになった。
翌日、二日酔いでひどい頭痛になりながらも、俺達は競馬場に来た。ギャンブラーと言っても、俺達がここに来るのは初めてだった。俺達は、パチンコ専門だったからである。ギャンブラーとしてはまだまだかわいい方ということだ。
しかし、俺達は、今日、ここで次なる一歩を踏み出そうとしている。
「ねえねえ、ヒロシ。ヒロシはどの馬が早いかとか分かるの?」
ノブオが不安げに俺に訪ねた。
「全くわからん」
俺は自信満々に答えた。
「じゃあ、ヨシオは?」
「俺も競馬には詳しくない」
ここにいる俺達は競馬に関して全くの素人であることがここで判明した。
「じゃあ、どうするの?そんなんで勝てるの?」
ノブオの自信のなさが俺の決心を揺さぶる。絶対がないのがギャンブルだ。なら、俺達にだって可能性はある。
「作戦は考えているから、大丈夫だ。心配ない。だからな、ノブオ。変に俺の不安を煽るのはやめてクレメンス」
「分かったナリ」
ヨシオは子供のように笑う。
「その作戦とは?」
「これが作戦?」
ノブオがあまりにも大きな声で叫ぶので、俺はとっさに彼の口を抑えた。
「そうだ」
俺達は馬券売り場が見える場所で購入する人々の様子を伺っていた。
「無知な俺達が勝つための作戦としては合理的だ」
どうやらヨシオのお墨付きまでもらえた。
「だろ、馬ではなく。馬券を買う人を観察する。詳しそうな人に目をつけて、
同じものを購入するんだ。資金力を駆使すれば俺達は大金持ちになれるって作戦だ」
俺がしたり顔で愉悦に浸っていると、ノブオが俺を称賛する。
「言われてみれば、確かに合理的だ。お前、天才かよ」
ノブオがはしゃいで俺の背中を叩くのが痛かった。
「けど、ここで一つ問題がある」
俺は人差し指を立てた。
「誰が、詳しいと思う?」
せーの、でそれぞれ指を差すと、俺達が選んだのは全く違う人物だった。
ここで俺はある妙案を思いついた。
「ここでもお試しとして一万円ずつ賭けよう。一人でも当たれば、俺達の勝ちだ」
「分かった」
「了解」
俺達は再び一万円を握りしめ、目星をつけた人物に向かって別れていった。
初対面の人に購入した馬券を聞くわけにもいかない。そこで、俺は彼の馬券を盗み見ることにしたが、これが意外に簡単だった。
人々は馬券を隠すどころか、大事そうに握りしめ、購入した馬券を見つめていたのだ。
俺がターゲットにしたのは、白髪交じりの老人だった。しかし、老人らしさはあまり感じられない、足腰がしっかりした人物だった。その影響もあってか、俺は彼に百戦錬磨の貫禄を感じたのだ。
しばらくして、レースが始まった。
レースが始まると会場は思いの外、盛り上がっていた。かくいう俺も、この握りしめた一万円の馬券が紙切れとなるか、それとも数万円の札束となるかを考えるだけで、体も心も高揚した。声を上げずにはいられなかった。
順調に俺が選んだ馬は先頭に近づく。俺が購入したものは単勝というもので一着となる馬を当てればいい単純なものだ。
レースは最後の直線に差し掛かる。現在、選んだ馬は二番目。だが、一番目の馬より走るのは早い。その差は段々と小さくなる。三番目以降とは大きな差がついている。後は、俺の馬が追い抜けばいい。
ゴールが直前に迫る。先頭を走る二頭の馬はちょうど横に並んでいた。
そして、ゴールイン。結果は俺の目では判断できなかった。だが、ターゲットの老人はものすごく喜んでいる。動体視力が半端ないのだろうか。それとも、ただの思い込みだろうか。
結果はすぐに分かった。アナウンスが会場に響く。その瞬間俺は歓喜の声を上げた。俺の一万円の馬券は数万円の札束となったのだ。
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