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「ねぇ、君島。覚えていらっしゃるかしら?」  生徒会室に入ってきた少女は、悠然と、椅子に腰掛けた。 「俺は会長で、君は一生徒のはずだが。そして、俺はもう、君島じゃない」  会長席に座る男は、君島と呼ぶな、と少し遠回しに、少女に言った。 「あら、では、何とお呼びすれば良いんですの?」 「会長。最低でも、七楽(ならく)」 「そう。では、七楽。貴方は、覚えていらっしゃるのかしら。9年前の出来事を」 「9年前? 何かあったか?」  呼び捨てにされたことは気にも止めず、七楽は少女と話を進めた。 「やはり覚えていらっしゃらないのね。あなたは、お父上と一緒に烏鷹(うたか)の邸宅に遊びに来てくださったの」 「……ああ、あの時か。しかし、わざわざ烏鷹の邸宅と言う必要はないんじゃないか? 烏鷹の御令嬢」  烏鷹の御令嬢と呼ばれた少女は、少し目を細めた。  実は、烏鷹家というものは、その世界では有名な旧家である。 「残念ですけど、わたくし、もう、烏鷹の令嬢ではないんですの」 「どういうことだ? 離婚されたのか? お父様とお母様は」 「いいえ。あなたのご両親のように、離婚したわけではございません」  少女がそう言うと、七楽は顔を顰めた。 「あら、ごめんなさい。つい」 「……いや、いい。それより、どういうことなんだ?」 「わたくし、勘当されたんですの」 「は?」 「少しばかり父上と喧嘩いたしまして。それが大きくなって勘当ということに。まあ、弟がいますので、烏鷹にも大した損害はないと判断したのでしょう」  少女は、淡々と冷静に、そう話した。 「だから、わたくしは、普通の烏鷹美國(みくに)。令嬢では、ございません」 「……悲しくないのか?」 「ええ、別に。わたくし自身の資産もちゃんとございますし。コネクションもバッチリですわ」 (コネクションはバッチリというのか?)  七楽は変なところが気になってしまった。 「第一、七楽がいますから」 「……ん?」 「それより、そんなことも知らなかったのですか? 眉目秀麗、文武両道の生徒会長?」 「生憎だが、各生徒の情報を収集し、それを頭に叩き込めるほどの時間は、生徒会執行部には、ないんだよ」  額に青筋を浮かべながら、七楽は笑って答えた。
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