#5

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#5

「ひうっ!」  強い突き上げに、烏田の背筋がのけぞった。彼の中が鳩山の形に戦慄いて、甘えるように締め付けてくる。 「ひ、あ、あ、あっ、んんっ!」 「はっ、はっ、っ、……烏田さん!」  ぱちゅ、ぱちっ、ぱちゅん――室内に響き渡る、肉のぶつかる卑猥な音。たちまち二人分の汗と先走りの匂いが、ベッドに立ち込めた。  鳩山は溜まりに溜まった鬱憤を吐き出すように、がむしゃらに腰を叩きつけた。絡みつく肉との摩擦は目の眩むような快感を生み、引けば桃色の肉襞が追い縋って捲れ上がって、また腰を押し込んで――ああ、だめだ、何も考えられない。もはや思考は快感の渦に飲み込まれ、肉欲を貪る永久機関と成り果てていた。 「ずっと、……ずっと、こうしたかった」  ぎしっぎしっとベッドを激しく軋ませながら、鳩山は譫言のように呟いた。 「か、烏田さんの自撮りを見た時から、こ、こうしたいと思ってました」 「へ、へえ、最初から、俺に盛ってたの?」  烏田はニヤリと笑ったが、彼も余裕がないのは明らかだ。耳たぶまで朱に染まり、声が掠れている。 「俺で、オナニーした?」 「しました、いっぱい、した」 「鳩山くんて、結構ムッツリなんだ、あっ! んんっ――!」  亀頭で腹の裏側を押し上げるようにすると、烏田の声が数オクターブ跳ね上がった。ぶるんぶるん、と頭を振っていた彼のペニスから、ぴゅっとしずくが飛ぶ。鳩山を締め付ける肉輪が、ぴくぴくと震えた。  鳩山は、ぴたりと動きを止めた。 「……今の、痛かったですか?」 「ち、違っ……」 「じゃあ、気持ち良かった?」  ぐりぐりと腰を押し付けると、今度は「や、ああっ!」と髪を振り乱して身悶えた。長い睫毛に涙が絡み、だらしなく溢れた唾液が彼の口元を濡らしている。  自分の腰の動き一つで、ここまで乱れるなんて――感動と優越感が混じった愉悦が、背筋を駆け抜けた。  そこからは鳩山の独壇場だった。腰の動きに緩急をつけて、年上の男を翻弄する。奥深くを抉って高い声で泣かせ、浅いところを擦って焦らす。子供が洞窟を探検するように、夢中になって初めて抱く男の身体を探り、味わった。 「烏田さん、これは?」  胸にぷつんと立つ小さな尖りを、きゅっと摘んでみせた。すると回路か何かで繋がっているように、ひくっと鳩山を食んだ襞がわなないた。 「こうすると、気持ちいい?」 「ん、いい……」 「右と左、どっちがいいですか?」 「両方、して」 「欲張りですよ、烏田さん」  でも蕩けた顔でおねだりされたら、両方してあげたくなる。先程鳩山がされたように片方を指先でつねり、もう一方を口に含んで弄んだ。きゅうっと吸い上げると硬くしこって、また潰したり弾いたりしたくなる。小さく敏感なところへの攻撃に、烏田は猫のように喉を鳴らした。  そうしてしてしばらく彼の身体を堪能し、汗と肌の味を楽しんだ。耳の後ろの薄い皮膚や、足の付け根を探ると、ぴくぴくと肉襞が震えて喜ぶのが可愛らしい。これが同じ男の身体だなんて信じられない。  鳩山は、おもむろに彼の両足を担いだ。 「烏田さん、もっと深く入っていい?」  そのまま足を頭の方へと押しやり、尻を上へと向かせる。鳩山は腰に体重を乗せて、ぐっと押しつぶした。でんぐり返りを中途半端に止めたような窮屈な体位に、烏田の表情が歪む。 「くっ、はっ……きつ、」 「苦しいですか?」  自身の足の間で、烏田はゆるゆると首を振った。 「このままで、いい。お前のでかいちんぽも、よく見えるし」  おそらく、彼の視界からは白い尻に突き立つ男根がよく見えているのだろう。そう思うと、ますます頭が沸騰してきた。 「――あぐっ!」  ばちゅっ! ――烏田を押しつぶすように、腰を打ち付ける。  衝撃をもろに受ける彼は苦しいだろうが、この体勢だと中が圧迫されて気持ちいいし、彼のいいところにもよく当たる。中の少し膨れたところを重点的に擦ってやると、烏田の尻が堪らないと言わんばかりに悶えた。 「ひぐっ、うっ、あぐっ、ふ、深いぃ……!」 「鳩山さん、気持ち、いいですか?」  鳩山の問いに、彼はかくかくと首を振る。彼が気持ちいいと、俺も気持ちい。彼と自分の境界が曖昧になって、ぐずぐずに溶けている。もっともっと、溶けて、繋がって、ひとつになりたい―― 「ひゃっ、あ、あああん!」  鳩山はシーツに両手をつき、律動を一気に早めた。鳴り響く打擲音と濁った水音。目の前で揺れる彼のペニスをにゅるにゅると扱き、これでもかと追い込んでいく。 「も、だめっ! イっちゃう! はとやま、い、イくっ!」  嬌声の合間、初めて呼び捨てにされ、喜びの花がぶわっと胸に咲いた。 「あ、も、だめ……い、イぐっ! あぁ、ああああ――……!」 「俺も……出る、」  激しい痙攣が、二人を襲った。  先に達したのは、烏田だった。肉筒の奥がびくびくっと痙攣し、同時に手の中でじわっと熱が広がった。  烏田を壊す勢いで腰を押しつけ、その奥に欲望を吐き出した。どくっどくっ! と本当に音がしそうなほど肉茎の付け根が脈打ち、彼の最奥を濡らしていく。誰かの中で達するのは初めてだ。今まで感じたことのない開放感が、ぶわっと腰から広がり、目の前にチカチカと星が散った。  烏田を抱きしめたまま、シーツに崩れ落ちた。  気だるい充足感と達成感とが、全身をどっぷり浸していた。ずるっと自身を引き抜くと、こぽりと白濁が溢れて弛緩した尻を汚した。本当に、この人を抱いたんだーーそんな実感が、熱となって頬を焦がした。 「んぅ、――」  無意識に抱き寄せると、烏田の肩がぴくんと震えた。その反応に、鳩山ははっとして身を起こす。 「す、すみません、大丈夫ですか?」 「ん……大丈夫。ちょっと敏感になってるだけ」  そう言うと、烏田はうっすらと笑みを引いた。上気した肌と汗で張り付く前髪と相まって、めちゃくちゃ妖艶に見える。エロすぎて心臓が潰れそう。 「すごく良かった」  烏田は鳩山の腰に腕を回し、胸に頬擦りしてきた。彼がこれほど自然にいちゃいちゃしてくれるとは思わなかったので、かなり感動していた。 「お前を振った女の子たちは残念なことをしたな。こんないい男はそうそういないのに」  烏田の湿った手が、濡れそぼつ鳩山を優しく握った。ちんぽだけ褒められているような気がするが、でもいい男なんて言われたらそれこそ天に昇ってしまう。我ながら単純。 「大人しそうな顔して、激しいじゃないか」 「いや、そんな……烏田さんじゃないと、ああはならないと思います」  ぽろっと漏らしてしまった本音に、烏田はひくりと眉を上げた。しまったーー甘くぬるんでいた空気が、一瞬、張り詰める。  今の迂闊な一言を、彼はどう受け取っただろうか。落ち着いていた心音が、再び速くなっていく。  鳩山は、ごくりと喉を鳴らした。  言ってしまおうか。  言ってしまいたい。  本音を打ち明けたら、どうなるだろう。手が届かない人と身体を重ねて、そこからさらに深く繋がりたいと思ってしまっている。馬鹿だ。おこがましいにも程がある。 「鳩山」  また呼び捨てにされ、ぎゅっと胸が締め付けられた。彼の色の深い瞳に、真っ直ぐ見つめられる。よく吸い込まれそうな目、という表現があるが、本当に、眼力だけで魂が抜き取られてしまいそうだ。 「か、烏田さん、俺……」 「お前ーーーー硬くなってる」  ぎゆっ、……彼の手が、陰茎を強く握った。  自分でも気付かないうちに、そこはすっかり元気を取り戻していた。彼の指が丸く先端を撫で、じわっと熱が広がってくる。 「おーおー、さすが若い。回復早いな」 「いや、いつもこんなんじゃないんですけど……」 「よいしょっと」  肩を押してひっくり返されると、烏田が腰に跨ってきた。またローションをたっぷり手に取り、後ろ手で鳩山に塗りたくる。そうやって彼の切長の目に見下ろされていると、ぞくぞくっと背骨から痺れが走った。 「今度は俺が上な。もっと気持ちよくしてやる」 「あ、ちょっ……」  分身がぐぷぐぷと彼の尻に飲み込まれるのを見届け、鳩山は目眩く快感に喉を逸らせた。  やばいーーーー  こんなの知っちゃったら、もう戻れない。  メスお兄さんに身も心も翻弄されながら、鳩山はどうしようもない恋に落ちていった。 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ 「おはよう、鳩山くん」    あくる日、あくびをする鳩山の背中をばしん! と烏田がたたいた。エレベーターホールに溢れる朝日の中、彼の美貌が爽やかに輝いている。 「眠そうだね、大丈夫?」 「……烏田さんこそ、大丈夫ですか?」 「俺は慣れてるからね」  彼はしれっと言って、鳩山の隣に並んだ。  彼の髪は整髪剤できちんと撫でつけられ、かすかにシェービングローションの匂いを纏わせている。昨晩、鳩山の下で喘いだり、上で腰を振っていた男と同一人物とは思えない。ひょっとして二重人格なのか? 脳がバグりそうになる。  昨晩、結局烏田と四回交わり、鳩山は四回達した。彼の方は何回イったかは分からない。最後の方ではペニスが勃たなくなり、大きく痙攣するたびに苦しげに半透明な涙を流すばかりだった。射精せずに達する彼はゾッとするほど美しく、様々な体位で彼を泣かせ、喘がせた。  もうあんなセックス、二度と経験できないだろうな――しみじみと昨夜の思い出に浸っていると、「鳩山くん」と呼ばれた。 「何ですか?」 「今週の金曜日、空いてる?」  烏田の目が、すっと細まる。獲物を狙う蛇の目だ。 「……空いてますけど」 「よろしい」  彼は背伸びをし、鳩山に囁いた。 「――じゃあ仕事が終わり次第、あのホテルに集合な。今度はもっと可愛がってやる」  耳朶に吐息がかかった瞬間、ずきゅっと股間に電気が走った。  烏田はちろりと唇を舐め、颯爽とエレベーターに乗り込んだ。真っ赤な顔で、呆然とする鳩山を置き去りにして。  ああ――鳩山は、静かに天を仰いだ。  どうやら俺は、そうとう性質の悪い蛇に飲み込まれてしまったらしい――それなのに、鳩山の胸は期待で高鳴っていた。
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