5つの夢

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5つの夢

2010年6月23日 ここは とある都市の郊外のバイパス沿いにある量販店 ――【TSUTAYA】―― 午後7時 夕暮れから宵闇に移り変わると まるで浮かび上がるかのように 煌々とし出す【TSUTAYA】のネオン看板 それに魅せられるかのように集まる人達 サラリーマンやOL、高校生 様々な人々が 様々な日常を終え 様々な帰路の途中にいる “……………” 販売カウンターの正面の一角にまとめて陳列されているCDアルバム とりわけ目を引く赤地が主体のジャケットのアルバムには【初回限定盤】というシールが貼られている [在庫に限りがあります] という店側の注意書きのとおり そこに残っているのは 5枚しかない 『……………』 ひとりの男性はそのアルバムの一枚を手に取り興味深げに眺めていた 見たところ40代前半くらいの男性 身なりは決して裕福とは言えない くたびれたポロシャツと使い込んだ靴が何よりもそれを物語っている “……………” その男性のわきで、しきりに並べられたCDを覗いている女子高校生 『……………!!』 紺色のブレザーを左右に揺らしながら落ち着かずにいる―― すると―― 『…………!』 男性のわきから、とっさにCDアルバムの一枚をわし掴みにした 『♪』 彼女の手中に収まるアルバム―― 【ハラッド】 女子高校生は、確認する間もなくレジカウンターの方へ足早に向かって行った 『……………』 一方の男性は、相も変わらずCDアルバムの収録曲をじっと眺めている 『……………』 ふと、 『…………!』 その中の一曲に目が止まる 『……………』 ようやく心づもりができたのか 足の矛先をカウンターに向け、その場をゆっくりと去る 男性の手に大切に包まれたアルバム―― 【ハラッド】 男性が去ったあと 入れ替わるかのようにスーツ姿の若い女性が、その一角を訪れる 『……………』 店頭用のポスターを嬉しそうに見つめる その目はうっすらと寂しげに赤らんでいたが、ポスターを見つめている間は、穏やかに安らいでいた 『……………』 ポスターから目を離し、並べられたCDアルバムに手をかけようとした、 その時―― 『………!』 『………!』 もう一つの手が触れる 同じモノを取ろうとした一方の手であった 『あっ!ごめんなさい』 女性は何故かとっさに謝る 視線の先には ラフなTシャツに身を包んだ若い男性 『ハハ……』 『あっ……ハハ……』 お互いに照れ笑う 『ど、どうぞ』 『あ、じゃ、じゃあ……』 男性に微笑みを向けながら女性はCDを手に取った 女性が手に取ったアルバム―― 【ハラッド】 レジの方へ向かう女性を見届けると 男性も改めてCDを手に取った その同じアルバム―― 【ハラッド】 置かれていたアルバムはいつの間にか最後の1枚となっていた 『あったぁ~~♪』 安堵の声を漏らしながらやってきたのは若いビジネスマンとおぼしき男性 会社帰りに急いできたのであろうか―― まだ肩で息をしている 『ふぅ~』 最後の1枚を手に取った そのアルバム―― 【ハラッド】 様々な思いが込められたひとつのCDアルバムが 様々な人達のもとへ 様々な夢を運ぼうとしている 2010年6月23日 この日 また新たな夢が生まれようとしていた――
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