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『うわ~本格的なグラウンドじゃないっすか』
グラウンドに降り立つ二人
『ここで俺は、サッカーを子供達に教えてるんだ』
健一はそう言いながら、祐介の車椅子に手を添えて押し出す――
『へぇ~』
『……………見直した?』
『かなり』
芝生のグラウンドのペナルティエリアの前に祐介の車椅子を付ける
そして
健一自身は、ゴールに向かって歩いていく
ゴールポストの傍らに転がるボールを拾い上げると
『さて、準備はいいかな』
『はい』
『【ふたりワールドカップ】――始めるか』
『はい、いつでも』
笑顔を向ける祐介
『ルールは至ってシンプル――PKの一発勝負だ』
『………………』
『決めたら祐介君の優勝だ――』
『…………はい』
〈ビューン〉
祐介のもとへ投げられるサッカーボール
〈パシッ〉
受け止める祐介
『いつでもこい』
構える健一
『……………』
『……………』
〈ポツポツ〉
先ほどから落ちる雨の小さな粒――
祐介が手に持つボールにひと粒ひと粒流れる
『………………』
『………………』
〈ポツポツ〉
『……………!』
〈シュッ〉
真上にボールを放り投げた
高々と上がったボールは
雨雲を突き抜けるように
雨粒を払いのけるように
ぐんぐん伸びていき
やがて
最高点まで到達すると――
重力のままに落ちていく
雨雲の隙間から差し込む光を浴び――
ゆっくりと
暖かい光を帯びながら降りてくる
〈ボン!〉
『!』
頭で押し出されたボール
ゴールへと飛んでいく
放物線を描きながら
『―――!!』
『…………』
ネットに包まれる
『!!』
『!!』
弾んでいるボール
『…………』
『…………』
そのボールは
雲間から伸びる光に照らされて鮮やかに輝いたままゴールに転がっていた
『……………』
大切に両手で持ち上げる健一
『……………』
そして、真正面の祐介に顔を向ける
『…………?』
『……………』
こちらを見つめながら
目を丸くしている祐介
『やったな祐介君』
『……………』
少し様子がおかしい
『ん?どうした』
『……………』
健一を凝視している
『……………?』
『あ…………あの………』
『……………ん?』
『…………全部……思い出しました………』
『………祐介……君?』
『………コーチ………俺………』
『………祐……介……?』
『あれから……ずっと……肝心な記憶が………無かったんですね……俺………』
『……………』
『……………』
『おかえり……キャプテン』
雨雲はいつの間にか
消え去ろうとするかのように遠い空へと散っていく
暖かな日だまりを二人に残して――
雨の日のドラマ
完
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