Y-3 旅の日のドラマ

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Y-3 旅の日のドラマ

2010年6月25日 午後11時30分 とある都市の駅から出発する 夜行高速バス 金曜の深夜便ではあるのだが、座席は数人ほどしか埋まっていない 『……………』 単身客ばかりの車内は静かでゆったりとした時間が流れている 誰もが早朝の到着に向けて休息を得ようとしている そんな中―― 『………………』 たった一人の女性客―― 夕子は―― iPodから流れる心地よいメロディーに耳を傾けながら じっとケータイの画面を見つめていた 『……………』 🎵あれから幾つもの🎵 まさか自分がこの路線上にいるとは想像すらしていなかった 🎵淋し気な夢ばかりを見る🎵 仕事帰りのそのままにバスに飛び乗った 🎵乾いた胸をなぞる風が🎵 気持ちの赴くままに―― 🎵熱い夏を告げる🎵 そのバスの行く先は ――京都―― 『……………』 🎵大切な言葉を🎵 彼女をその地に向かわせることとなった 一通のメール 🎵くれるならさよならでもいい🎵 たった一行の文面だった 🎵出逢った店の奥に残るあなただけの香り🎵 【今でも僕のそばにいてくれますか?】 🎵ためいきのベルが……🎵 ケータイの画面に焼きつくように表示され続けている 🎵お別れのしらべ🎵 そのメールは存在するはずが無かった 🎵今宵もまた雨に濡れ夜を抱きしめて🎵 〈ドクドクドク〉 🎵甘く揺れる🎵 やみくもに心臓が早鐘を打つ 🎵ためらいがちな恋に震えた🎵 “どうして……?” そのメールを受け取ったのは3日前の夜―― 夕子にとっては特別な日の夜だった “……いったい……誰?……” 🎵弱すぎたばかりに🎵 差出人の名は―― 🎵待ちわびるのは慣れてただけ🎵 【ムラカミ タクヤ】 🎵届いた波の音に🎵 “タク………ヤ……?” 🎵二人だけの夏が終わる🎵 その名を心の中でつぶやくだけで 淡い記憶が交錯してしまう 🎵優しさに負けて🎵 ――『夕子には幸せになってもらいたいんだ』―― 🎵愛しくて涙🎵 あの優しい面影が鮮明に心のスクリーンに映し出される 🎵お互いに若すぎると🎵 本当に大切な人だった 🎵気づかないままに🎵 でも もはやひとつの過去として日常に埋もれてしまっていたのかもしれない―― 🎵いつの頃か……🎵 “なんで……なんで?……” 🎵浮気な風のせいにしていた🎵 呪文のように繰り返す 🎵うつろいがちな時間を見つめて🎵 “……タクヤ?………本当にタクヤなの……?” ケータイの画面に問いかけるのだが 返事などない 🎵遠くなれば無邪気な空🎵 分かっていた 🎵いつかそこに戻れたら🎵 その文面にどんなに返事を求めても もう二度とあの日に戻れることなどないのだと 🎵ためいきのベルは🎵 彼はこの世にいない 🎵黄昏の合図🎵 紛れもない事実 🎵よく似た他人を見るたび明日は遠ざかる🎵 “……わかってるんだ………でも……” 🎵忘れられぬ🎵 彼のいるはずのない あの地へ向かう事を決めた 🎵夕やみ迫る海が泣いてる🎵 叶わぬ夢を期待しているのかもしれない 🎵せつなさだけの恋にお別れ🎵 『……………』 ケータイの画面を閉じるとともに 瞳も閉じる 『……………』 バスよりも この身よりも 思いだけを目的地へ辿り着かせるかのように 『……………』 目に見えない記憶の旅への準備支度を始めるかのように――
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