Y-3 旅の日のドラマ

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京都駅から市営バスに乗る―― 『………………』 夕子にとって行き先はどこでも良かった ただ最初に立ち寄りたかったのはあそこだったのかもしれない―― ――『夕子さん、京都初めてなんですよね!』 『――あ、はい』 『だったらまずはあそこにいかないと』―― 『……………』 バスの車窓から見える街並み―― 数年振りに訪れる京都の街並みはそれほど変わっていなかったのかもしれない しかし、夕子が記憶の中で求める京都はそこにあったのだろうか 『……………』 iPodを取り出し、イヤホンを耳に当てる とにかく何かにすがりたかった 自分が今、一番求める答えを知りたくて 🎵🎵 バスは鴨川を渡る 🎵鴨川流る 京はふるさと🎵 ――『今の時期なら清水寺なんてどうかな』 『まだ桜は咲いてないんじゃないですか?』 『夜の花灯路なんです』―― 🎵春は花灯路の東山でした🎵 『……………』 バスは停留所の「清水道」に止まる バスを降りたら、清水坂を歩く やがて産寧坂の角の七味屋本舗を過ぎると人の往来が増え、にぎやかな雰囲気になる ――『わぁ~ホント灯籠の灯りがず~っと並んでるんですね~キレイ~♪』 『始まったばかりのイベントなんですけど、多分、これからもっともっと観光客も増えるんじゃないかな』 『へぇ~。毎年来てみたいですね』 『僕とですか?』 『え!あ~……ハハハ』 『ハハハ』 『………村上さんは今、お一人なんですか?』 『あ、まぁ~一人暮らしは結構長いですね。高校からだし、かれこれ……』 『あの~そういう意味じゃないんですけどぉ~』 『産寧坂だけに“さんねん”になるかな~なんちゃって…ハハハ』 『……話……聴いてます?……』―― 坂の突き当たりに、真っ赤な仁王門が見えると清水寺に到着する 『……………』 その仁王門の階段を登れば清水寺なのだが…… ――『地主神社って知ってますか?』 『知らないですケド』 『清水寺の境内にあるんですけどね、恋愛祈願で有名なんです』 『へぇ~面白そう!それじゃ行きましょう』 『――でも夜はやってないんですよね』 『って意味ないじゃないですか!』 『すんません』 『……………』 『……………』 『……ぷっ……ハハハ』 『ハ……ハハ』 『村上さん……また来ませんか?今度は昼間に』 『そうですね』 『じゃあ~約束♪』 『――それって僕と!?』 『ほかに誰がいるんですかぁ~もう!』―― “……………” あの時の彼の驚いた表情 今でも鮮明に思い出せる そして 叶うことの無かった約束 “今でもあなたは覚えてくれてますか……?” 『………………』 その仁王門の階段を 夕子は一人で登ることが出来なかった 清水寺を背にし 坂を降りる 🎵祇園囃子が響く夏にも🎵 ――『私、大文字焼き、見たいなぁ~』 『夕子!そんなこと言ったら京都の人に笑われるぞ!』 『どうして?』 『京都の人はな、“送り火”って言うんだよ!“大文字焼き”じゃあ~饅頭じゃないか!』 『あっ!私、饅頭食べたい!』 『………話…聴いてる?……』―― 🎵送り火に揺られて……🎵 ――『うわ~キレイ♪大文字焼き……』 『……まったく……』 『……また見たいね』 『京都にいれば……毎年見れるよ』―― 🎵永遠にあなたは眠る🎵 鴨川の堤防から見た 大文字 あの時の美しい送り火と 彼の横顔を忘れない “……………” 🎵二人で歩いた小路や石畳🎵 『……………』 一人で歩く石塀小路 ――『この石塀小路を通らずに京都は語れないぞ』 『とかなんとか言って、タクヤ、舞妓さん目当てなんでしょ』 『そんなことない』 『あっ舞妓さんだ!』 『えっ!?どこどこ!』 『嘘だよぉ~~だ』 『このぉ~~』 『ハハハハハ』―― 🎵月夜にまぎれて隠れた恋の街🎵 東山駅から市営地下鉄東西線に乗り、蹴上駅に着く そこから歩いて10分ほどで南禅寺に着く 🎵“都や御所”の紅葉染まりて🎵 ――『京都はやっぱり紅葉だよなぁ~』 『タクヤのオススメは?』 『南禅寺のそばの“哲学の道”が俺、好きなんだよな』―― 🎵歌人が愛でたは秋の南禅寺🎵 ――『綺麗だね!それに散歩コースにピッタリかも』 『気に入った?』 『うん』 『……………』 『……タクヤ?……どうしたの?』 『………夕子……あのさ……』 『ん?』 『俺の……前に付き合ってた彼女が……やっぱりこの道が好きだったんだ……』 『――え?』 『最後のデートも……ここだった』 『……………』 『この道沿いにあるカフェで別れたんだ……』 『………………』 『………………』 『何で?』 『……………』 『……何で?……私の前で、そんな話するの?』 『え?』 『同情してもらいたいの?それとも、私が嫉妬するとでも思った!?』 『夕子……』 『タクヤの事、よく分かんないよ』 『―――――!』 『!』 『……………』 『ちょっ、ちょっと、タクヤ!ヤダ、こんなところで……』 『……………』 『……………』―― 彼に抱きしめられ―― 交わした口づけ―― どんなものよりも どんな紅葉よりも 心の奥深くまで 鮮やかな世界を魅せてくれた…… “………………”
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