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時刻は午後3時を過ぎる――
〈ガタンゴトン〉
嵐電嵐山線に揺られながら
徐々に暮れることを思い出したかのような陽を見つめている
“……………”
〈ガタンゴトン〉
夕子の胸にはしだいに焦りが生まれようとしていた
“まだ……行ってないところがあるはずなんだ……きっとそうだよね……”
〈ガタンゴトン〉
“タクヤ………”
〈ガタンゴトン〉
“どこにいるの?”
――『そうだ!夕子、嵐山に行こう!』
『何?急に』――
嵐山駅を降りると徒歩ですぐ
風光明媚な風情が漂う渡月橋
橋の途中から保津峡の美しい景観を眺める
――『わぁ~綺麗な眺め♪』
『そうだな』
『……………』
『……………』
〈ぐぅ~~〉
『ちょっとタクヤ~お腹空いたの?』
『…………俺のお腹じゃないぞ』
『………バレた?』
『分かりやすいな』
『どっか食べに行こうよ』
『よし、じゃあ~そばでも食べるか』
『私、おばんざいがいいなぁ~』
『嵐山って言ったら自然を見ながらそばだろ』
『おばんざいだよ!』
『そばだよ!』
『おばんざい!』
『そば!』
『……………頑固』
『……………夕子こそ』
『ジャンケンで……』
『…………よし!のぞむところだ!』
『じゃ~んけぇ~ん』
『じゃ~い~けぇ~んでぇ~』
『……………』
『…………ん?どうした?夕子?』
『フフ……何?その掛け声……』
『ジャ~イケンデェホイだろ!』
『ジャンケンポイじゃないのぉ~?おっかしぃ~』
『京都じゃこうなんだよ!』
『アハハハ』
『あっ京都をバカにしたな~』
『違う違う――ますます好きになっちゃった♪』
『え?』
『京都も……………タクヤも…………』
『……………』――
🎵嵐山にて 雪も恋しや🎵
人力車に乗って嵐山を散策した思い出
🎵南天の実のような赤い紅をさすわ🎵
竹林の道を通り抜け野宮神社にも訪れた
“………………”
縁結び祈願で有名な野宮神社には今日も女性参拝客の姿が多い
“みんな何を求めてるんだろう……?”
――『夕子、縁結びのお守りだなんて、必要あるのかよ』
『えっ、でもなんとなくこのお守り可愛いし♪』
『こういうのは男運の無い女性が持つんだよ』
『あっ、それじゃ~私持ってないと』
『何、言ってんだよ!目の前にイイ男がいるっていうのに』
『目の前?え?どこどこ?』
『くそぉ~~』
『ハハハハハ』
『……………』
『………ひがんだ?』
『………別に』
『あ、本気でひがんでるぅ~』
『ひがんでない!』――
いつでも彼は目の前にいてくれていた
🎵帰らぬ人への……🎵
楽しい時も
🎵想い出溢る場所🎵
嬉しい時も
🎵幾千年もの……🎵
ただ――
🎵涙の別れ道🎵
“……………”
彼がいない夜だけは寂しかった
🎵華やぐ夜の彩りや🎵
新しい想い出を見つけたかった
🎵河原町ともサヨウナラ🎵
なのに、見つかるのはあの頃の通り過ぎた想い出ばかり
“………………”
🎵二人で歩いた小路は濡れていた🎵
京都駅へ向かう嵯峨野線
🎵月夜にまぎれて隠れた恋の街🎵
いくつもの街を巡った
旅の終わり
“もう終わりにしないと……”
🎵昨日と明日を結んで帯にして🎵
“もう………来ることはないね”
🎵桜の花咲く頃また🎵
“サヨナラ……”
🎵京都へ🎵
夜9時
夜行バスを待つ停留所
夕子は今まで閉じていたケータイをそっと開く
【今でも僕のそばにいてくれますか?】
“……結局……何だったのかな?”
【ムラカミ タクヤ】
“でも……やっぱり、いなかったもんね……”
『………………』
“……私……やっぱり、どうかしてたな……”
〈パタン〉
『………………』
ケータイをしまい
少し蒸し暑さの残る
6月の京の夜風に吹かれながら両腕を組む
『………………』
瞳を閉じ
深く空気を吸う
京都の香り
京都の暖かさ
それらを惜しむかのように
――『夕子!!』――
『…………?』
――『夕子には幸せになってもらいたいんだ』――
『――――!?』
確かに聴いたことがある
彼の言葉
“どこで聞いたんだっけ?”
〈ドクドクドク〉
頭の中に無数の記憶を巡らす
“どこで……?”
その場所がどうしても思い出せない
『………………』
“きっとそこに彼がいる!”
〈ブォーーン〉
停留所にバスが乗り入れる
〈ドクドクドク〉
“思い出して!――大事な場所なの!”
〈プシュ――――〉
バスの乗車扉が開く
“早く……早く……”
数人ほどの待合い客がバスに乗り込んでいく
“夕子……思い出すの!!”
そして瞳を開ける
『……………!!』
夕子の目の前にそれはあった
“……そうだったんだ……”
すべての旅の終わりがそこにあった
『…………………』
――『俺が一番、夕子と来たかった場所なんだ』――
全ての記憶が繋がっていく
『………………』
とめどなく
溢れ落ち
頬を伝う
温もりある雫――
夕子はそれを拭い去ることなく
ただその場所を見つめていた
『…………………』
やがて歩き出す
バスのステップを
一段
そして
また一段と――
帰りのバスの車内
京都に背を向けながら走る車道はやはり寂しかった
『…………………』
たまらずにiPodを取り出す
“………………”
そして
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