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Y-5 Yの日のドラマ
『キスしてもいいか?』
『え!?』
〈ドクドクドク〉
その言葉は
信じられないスピードで
ルミの鼓膜を突き抜け
全身を駆け抜けた後
心の奥底に
優しく見事に不時着した
『はい…』
ルミは彼に全てを
委ねることに決めた――
たとえそれが
イバラの道だとしても――
つづく
『……ふぅ~……』
今日もひとつの仕事が終わった……
ケータイを閉じ、椅子から立ち上がると
『う~~ん』
両腕を心のおもむくままに突き出しながら伸びをする
ちょっとした達成感に浸るこの束の間の時間が好きだ
『………ムフッ♡』
<<<<<<次回を楽しみにしてます
『―――!』
だが、休んではいられない
<<<<<<続きが早く読みた~い!
私はやらなければならないのだ
<<<<<<頑張ってください(^^)/
これは、私に与えられた使命なのかもしれぬ
<<<<<<君はいったい誰なの?
『……………』
我の名は――
Y
神の戯れによって命を与えられた生命体?
ネットの世界に産み落とされた偶然の産物?
現代人の心の闇を唱えるメッセンジャー?
それとも――
“………疲れた………”
目の前のベッドに崩れるように体を横たえる
今日も全力で闘った戦士を祝福するかのように
朝陽が優しく……
“げっ!もう朝!?”
私にはやらなければならない使命がある
たくさんある……
本当に……
たくさぁ~ん!たっくさぁ~~ん!!
なのだ(-_-;)
<<<<<<Yさんの作品大好きです(#^.^#)
私の職業は……
<<<<<<ずっとファンです♪応援してます
いわゆるケータイ小説家
<<<<<<新作期待してるから~o(^o^)o
毎日のように私の作品に対して感想コメントが書き込まれる
<<<<<<今回も感動しましたよ~(泣)
私の作品を読んでいるユーザーは数万人とも言われている……
実感?―――それは、まったく無い
何故なら私の日常は何一つとして変わってないからだ
部屋の鏡の前で少しばかりの髪の寝ぐせを直しながら、慌ててブレザーの制服に着替える
朝食のパンをかじりながら、牛乳を流し込み、慌てて家を出る
そんないつもの朝
小説に書くような刺激的な毎日は無い
私のもうひとつの“職業”
私立高校に通う
ありふれた女子高生
“間に合った~~”
通学電車の時間に間に合わせることから私の1日はスタートする
いつもの電車の窓から見える街並み
見飽きた構造物と――それに押し込まれて窮屈に暮らす日常
そんな毎日から抜け出したくて……
気がついたらケータイを取り出してしまう
画面の奥に広がる世界
単なるコミュニケーションの一つに過ぎなかった道具が
私に新しい世界を魅せてくれる
<<<<<<Yさんの小説にハマってます!
そんな私の世界に共感してくれる人がいる
<<<<<<以前からファンでした♪
私が小説を書き始めたのは1年半前――
<<<<<<【恋は生たまご】からファンでした
【恋は生たまご】
私が初めて書いた小説
それが評判に評判を呼び
私の思いがけないところで広がっていった――
ほんの遊び心で始めたものが、ここまで多くの人に読んでもらえて、共感してもらえるだなんて想像すらしてなかった
それから2作目―3作目と次々に面白いように作品が生まれていった
<<<<<<Yさんって凄い!尊敬してます
ただ何気なく思ったことを書いただけ……
ただ願望を書いただけ……
<<<<<<Yさんって恋愛マスター!?
“………………”
私に恋愛経験は無い
<<<<<<きっと素敵な恋愛経験されてるんですよね!?
昔から容姿に自信が無いし……
そんな弱気な自分に魅力を感じてくれる人なんていないだろう
<<<<<<Yさんに相談にのってもらいたいな~(*´ω`*)
“…………………”
<<<<<<君はいったい誰なの?
私の名前は……
『ねぇ!“しずか”!聞いてるの!?』
『――え!?あっ、うん』
『“し~ちゃん”、なんかずっとボーっとしてたね』
いつの間にか舞台は学校の校庭
グラウンドを見下ろす階段に座るシチュエーション
私がボーっとしていて記憶喪失になっていたわけではない
小説の物語を進めるのに都合のよい舞台替えの技法の一つ……
『いつものように妄想してたんでしょう』
『ち、違うよ!ちょっと疲れてただけ……』
なかなか鋭い
私の隣に並んで座る彼女
“マキ”
『“しずか”らしいね』
私のマブダチだ
『“し~ちゃん”寝てないんじゃない?目の下にクマが出来てる~』
もう一人並んで座っている彼女
明るさがとりえで心優しき私の心の友……“あっちゃん”
『大丈夫!』
『ムリは体に毒だよ――だって昔から言うじゃない、“人生はすごろく”だって』
『……??すごろく?』
『出る目は分からないでしょ!だから運がない時にムリをしたって無駄ってコトよ』
『……あ~なるほど~……』
“フムフム”
『マキちゃん、イイ事言ぅ~』
手を叩くあっちゃんの隣で私の妄想はまた膨らむ
“次のテーマはこれだ……”
マキの発想は見事
――『恋は“生たまご”みたいなものなんだよ』
『生たまご?』
『思い切って叩いて割るか、じっくり茹でるか、調理の仕方は色々ってコトだよ』
『あ~……なるほど~……』――
私の人生は彼女のたわいないつぶやきによって大きく変わった……
『“しずか”、なにニヤニヤして~』
『フフ……何でもない』
感謝してるよ、マキ(^з^)-☆
ところで
私が呼ばれている名前――
“しずか”
私の本名ではない
ニックネームというヤツだ
名付け親がちゃんといる
――『お前、いつも静かだから“しずか”ちゃんだな!』――
『……………』
たわいもない小学校時代のあだ名がそのまま移行されている
好む好まざるに関わらず、私はそれを受け入れてしまっている
だって
本当に私はその名前のとおりだから……
『あっ!ヒデ様がシュート決めた!』
『……………』
『あっちゃん~、ヒデ君にゾッコンだね~……しずか、どう思う?』
『え?……ま、いいんじゃない!?』
『そういうマキちゃんだって、ヒデ様のコト、気になってるんでしょ~!?もう校内の男子の中じゃ一番格好いいし~スポーツできて~バンドも組んでるしぃ~』
『私はそんな事ないよ!そこらへんの女子と一緒にしないで』
『はぁ~ヒデ様、カッコいぃなぁ~振り向いてくれないかなぁ~』
『あっ、しずかはどうなの?ヒデ君と幼なじみじゃない』
『……え?……あ……ヒ、ヒデ…?単なる幼なじみだよ……』
そう、彼は私の幼なじみ
『し~ちゃん、お願い~私のためにキッカケ作って~~』
『………む、むりむり!昔は、よく話したけど……今じゃ、とてもとても!』
『はぁ~~そっかぁ~……』
『……………』
『……………』
三人ともに空を見上げる
広がる透き通るような青空
なんか青春?
『私達って……幸薄ぅ~~』
『!?』
『!?』
あっちゃんの言葉がやけに響く
『……………………じゃあ~行ってみる?』
『?』
『?』
『出会いを求めて』
『マキ、どこ行くの?』
『ヒデ君のバンドが出るライブハウス』
『え?』
『行く行くぅ~♪』
『日曜日の夜8時なんだけどさ』
『マキちゃん、くわしぃ~じゃなぁ~い、なんでなんで~?』
『私の知り合いもそこに出るの――だからたまたま知ってただけ』
『あっマキちゃんの気になる人~?』
『違う!違~う』
『マキちゃんってやっぱ分かりやす~い』
『だから違う!――あっ、しずかも行くよね』
『え?あ、私、ちょっと忙しいかも……』
『お願~~い、し~~ちゃん、一緒に来てぇ~~』
“日曜の夜か……たまには息抜きもいいかな……”
『…………………分かった』
ただの息抜き
そう言い聞かせる――
“……ヒデ……かぁ……”
――『お前、いつも静かだから“しずか”ちゃんだな!』――
なんで
受け入れたのか
不思議だけど悪い気はしなかった
でも
ちょっと寂しかった
<<<<<<君はいったい誰なの?
私の名前は……
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