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『ルミ、お願いがある』
『何ですか?』
『今夜、私のコンサートに
来てくれないか?』
『え?』
『どうしても来てほしい』
『……………』
『ダメか?』
『……だって……私なんかが
行っても……』
『君にどうしても来てほしい』
『……………』
『頼む……』
『………分かりました』
ルミは、そう返事をして
彼と別れた
紅潮する顔が
誰にも見つからないように、
真っ直ぐに自分の部屋に戻った
『……………』
〈ドクドクドク〉
緊張感がいつの間にか
幸せと結びついて
温かく優しく彼女を包み込む
彼女は思わず部屋にあったCDを
かけてみた
優しいBGMが彼女に寄り添う
『……………』
🎵ハートがせつなくて🎵
いつものようにBGMを打っている
🎵誰より愛していたのに🎵
物語の世界に合うように
🎵夢を見る頃は🎵
夢の世界をコーディネートする
🎵もう二度と帰らぬ I'm fallin'🎵
物語の決定権は私が握っている
🎵悲しいこの気持ち🎵
意のままに登場人物の運命を操ることができる
🎵本当の恋に落ちたのに🎵
でも――現実はそうはいかない
🎵今頃あなたは誰かを愛してる🎵
私は本当に無力
🎵I'm feelin' blue🎵
私は今まで何してきたのだろう――?
つづく
“つづく”を打ち終えて得られる達成感が
今日はどこか寂しかった……
“やっぱり……行くのやめよっかな……”
ほらまただ
きっと私の日常を小説にしたらこんな事の繰り返し
肝心なところで逃げちゃうんだ
きっと物語の分岐点がたくさんあるはずなのに
期待どおりに進まないで
別の行動をしてしまう
そんな登場人物は読者には魅力的に映らないし――
いつの間にか期待されなくなる――
私は主人公になれない
ずっと脇役
大きな物語の脇役
私自身もそれを望んでる
『………………』
<<<<<<Yさん、今日も最高でした(^^)
私はYなんかじゃないよ
夢の世界を出れば
ただの静かな“しずか”なんだ……
<<<<<<Yさんからはいつも勇気もらってます
私に勇気なんて最初から無いよ
<<<<<<Yさんのおかげで彼に告白できました
『……………』
あれ………?
<<<<<<失恋して悲しかったけど小説読んで立ち直れた~
今まで考えたことあった?
<<<<<<元気出ました(^^)v就活も頑張るぞ~ってカンジです\(^-^)/
気づいてなかったの?
<<<<<<入院中もずっと読んでました。だから頑張れました。
みんな……闘ってる
『………………』
<<<<<<私も夢をあきらめません!
逃げてるのって……
私だけ?
『……………』
<<<<<<私もYさんみたいな小説家になりたいな
『…………………』
私って
ちっちゃいな
“………行ってみよう………”
やっぱり……
現実と向き合わなくちゃ……
机の引き出しを開ける
可愛いアニメキャラクターのストラップ
――『これお前にやるよ』
『なに……これ』
『ドラえもんのしずかちゃん』
『私が“しずか”だから?』
『そうそう』
『……………』
『……怒った?』――
“覚えてないよね”
久しぶりに見るストラップは
案外なかなか可愛い
“………嬉しい………”
……って気持ち
出せなかったよ
<<<<<<君はいったい誰なの?
私の名前は……
『しずか!』
そうそう……
私の名前はしずか
『し~~ちゃん!次、ヒデ様だよ♪』
ここはいつの間にかライブハウス
しつこいようだが
めまぐるしい舞台設定の切替えは小説の技法のひとつである
私の得意技……
『なにまたボーッとしてるの~~!?ほらほら!次、ヒデ君だよ』
『う、うん……』
くれぐれもボーっとしてたわけじゃない
私の小説が今まさに展開されているワケで――
『きゃ~~!!!!』
ど、怒号のような…歓声が、こじんまりとしたライブハウスに響き渡る(*_*)
まさにその歓声に迎えられて
颯爽と現れたのは……
『………………』
現れたのは……
『……………』
“……ヒデ……”
『きゃあ~~ヒデ~~!!』
『ヒデさ~~ん♪』
『ヒデさま~~!』
エレキギターを持って佇むヒデ
クールに決めるヒデに観客の女性達のハートはがっちりと掴み取られている
“相変わらず無愛想……”
【ジャーン♪ジャッジャ~ン♪】
『きゃ~~!!!』
ギターをかき鳴らすとライブハウスの熱気に火が着く
『きゃ~!カッコいい~ヒデさ~ん』
“み、耳が痛い……”
バンドはほかにも、ドラマーやベーシスト、キーボーディストがいるのだが、
ヒデのオーラに観客の目は一点に集中されていた
“みんなヒデの引き立て役か……”
🎵おれの歌が聞こえているか~🎵
『ヒデ~~!!』
“そんなに歌が好きならサッカーなんてやめちゃえばいいのに……”
🎵せつない胸に風が吹いてるのさぁ~~🎵
『ヒデさま~!』
“欲張りだよ、ホント”
🎵逢いたくなってもぉ~君はここにぃ~いなくてさぁ~🎵
『キャー~!目があったぁ~!!』
“そのステージからどんな景色が見えるの?”
🎵素敵な夢を~叶えたかったよぉ~~イェ~🎵
《イェ~~♪》
“きっと私には縁のない世界だよね”
🎵ベイビー、ベイビー、さよならベイビー🎵
《ベイビー、ベイビー、さよならベイビー♪》
“これからもずっと……”
🎵ベイビー、ベイビー、さよならベイビー🎵
《ベイビー、ベイビー、さよならベイビー♪》
“みんな最初は同じスタートなのに……”
🎵ベイビー、ベイビー、さよならベイビー🎵
《ベイビー、ベイビー、さよならベイビー♪》
“どうしてこんなに差が開いちゃったのかな?”
🎵ベイビー~~愛して愛しちゃったのよぉ~🎵
『ヒデ~!愛してるぅ~~!!』
“遠くなったね……”
『……………』
その後もライブは続き
3曲を歌い切るとヒデのバンドはステージを降りた
『し~ちゃん、ヒデ様格好良かったね♪』
『そ、そうだね……』
『しずか、どうしたのぉ~このぉ~』
マキがニヤニヤしながらつっついてくる
『あんまりヒデ君が格好いいから魅とれちゃった??』
『………………』
そうじゃない
『ん?』
『?』
『ごめん、ちょっと帰るね……』
『え!?しずか!?なんで!?』
何故なのだろうか
『し~ちゃん!?どうしたの!?』
この場から早く立ち去りたかった――
彼の余韻の残る会場から逃げ出したくなった
でないと私――
<<<<<<君はいったい誰なの?
本当に誰なの?
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