Y-5 Yの日のドラマ

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       『ルミ、お願いがある』      『何ですか?』      『今夜、私のコンサートに      来てくれないか?』      『え?』      『どうしても来てほしい』      『……………』      『ダメか?』      『……だって……私なんかが      行っても……』      『君にどうしても来てほしい』      『……………』      『頼む……』      『………分かりました』      ルミは、そう返事をして      彼と別れた      紅潮する顔が      誰にも見つからないように、      真っ直ぐに自分の部屋に戻った      『……………』      〈ドクドクドク〉      緊張感がいつの間にか      幸せと結びついて      温かく優しく彼女を包み込む      彼女は思わず部屋にあったCDを      かけてみた      優しいBGMが彼女に寄り添う 『……………』        🎵ハートがせつなくて🎵 いつものようにBGMを打っている        🎵誰より愛していたのに🎵 物語の世界に合うように        🎵夢を見る頃は🎵 夢の世界をコーディネートする        🎵もう二度と帰らぬ I'm fallin'🎵 物語の決定権は私が握っている        🎵悲しいこの気持ち🎵 意のままに登場人物の運命を操ることができる        🎵本当の恋に落ちたのに🎵 でも――現実はそうはいかない        🎵今頃あなたは誰かを愛してる🎵 私は本当に無力        🎵I'm feelin' blue🎵 私は今まで何してきたのだろう――?        つづく “つづく”を打ち終えて得られる達成感が 今日はどこか寂しかった…… “やっぱり……行くのやめよっかな……” ほらまただ きっと私の日常を小説にしたらこんな事の繰り返し 肝心なところで逃げちゃうんだ きっと物語の分岐点がたくさんあるはずなのに 期待どおりに進まないで 別の行動をしてしまう そんな登場人物は読者には魅力的に映らないし―― いつの間にか期待されなくなる―― 私は主人公になれない ずっと脇役 大きな物語の脇役 私自身もそれを望んでる 『………………』   <<<<<<Yさん、今日も最高でした(^^) 私はYなんかじゃないよ 夢の世界を出れば ただの静かな“しずか”なんだ……   <<<<<<Yさんからはいつも勇気もらってます 私に勇気なんて最初から無いよ   <<<<<<Yさんのおかげで彼に告白できました 『……………』 あれ………?   <<<<<<失恋して悲しかったけど小説読んで立ち直れた~ 今まで考えたことあった?   <<<<<<元気出ました(^^)v就活も頑張るぞ~ってカンジです\(^-^)/ 気づいてなかったの?   <<<<<<入院中もずっと読んでました。だから頑張れました。 みんな……闘ってる 『………………』   <<<<<<私も夢をあきらめません! 逃げてるのって…… 私だけ? 『……………』   <<<<<<私もYさんみたいな小説家になりたいな 『…………………』 私って ちっちゃいな “………行ってみよう………” やっぱり…… 現実と向き合わなくちゃ…… 机の引き出しを開ける 可愛いアニメキャラクターのストラップ ――『これお前にやるよ』 『なに……これ』 『ドラえもんのしずかちゃん』 『私が“しずか”だから?』 『そうそう』 『……………』 『……怒った?』―― “覚えてないよね” 久しぶりに見るストラップは 案外なかなか可愛い “………嬉しい………” ……って気持ち 出せなかったよ   <<<<<<君はいったい誰なの? 私の名前は…… 『しずか!』 そうそう…… 私の名前はしずか 『し~~ちゃん!次、ヒデ様だよ♪』 ここはいつの間にかライブハウス しつこいようだが めまぐるしい舞台設定の切替えは小説の技法のひとつである 私の得意技…… 『なにまたボーッとしてるの~~!?ほらほら!次、ヒデ君だよ』 『う、うん……』 くれぐれもボーっとしてたわけじゃない 私の小説が今まさに展開されているワケで―― 『きゃ~~!!!!』 ど、怒号のような…歓声が、こじんまりとしたライブハウスに響き渡る(*_*) まさにその歓声に迎えられて 颯爽と現れたのは…… 『………………』 現れたのは…… 『……………』 “……ヒデ……” 『きゃあ~~ヒデ~~!!』 『ヒデさ~~ん♪』 『ヒデさま~~!』 エレキギターを持って佇むヒデ クールに決めるヒデに観客の女性達のハートはがっちりと掴み取られている “相変わらず無愛想……” 【ジャーン♪ジャッジャ~ン♪】 『きゃ~~!!!』 ギターをかき鳴らすとライブハウスの熱気に火が着く 『きゃ~!カッコいい~ヒデさ~ん』 “み、耳が痛い……” バンドはほかにも、ドラマーやベーシスト、キーボーディストがいるのだが、 ヒデのオーラに観客の目は一点に集中されていた “みんなヒデの引き立て役か……” 🎵おれの歌が聞こえているか~🎵 『ヒデ~~!!』 “そんなに歌が好きならサッカーなんてやめちゃえばいいのに……” 🎵せつない胸に風が吹いてるのさぁ~~🎵 『ヒデさま~!』 “欲張りだよ、ホント” 🎵逢いたくなってもぉ~君はここにぃ~いなくてさぁ~🎵 『キャー~!目があったぁ~!!』 “そのステージからどんな景色が見えるの?” 🎵素敵な夢を~叶えたかったよぉ~~イェ~🎵 《イェ~~♪》 “きっと私には縁のない世界だよね” 🎵ベイビー、ベイビー、さよならベイビー🎵 《ベイビー、ベイビー、さよならベイビー♪》 “これからもずっと……” 🎵ベイビー、ベイビー、さよならベイビー🎵 《ベイビー、ベイビー、さよならベイビー♪》 “みんな最初は同じスタートなのに……” 🎵ベイビー、ベイビー、さよならベイビー🎵 《ベイビー、ベイビー、さよならベイビー♪》 “どうしてこんなに差が開いちゃったのかな?” 🎵ベイビー~~愛して愛しちゃったのよぉ~🎵 『ヒデ~!愛してるぅ~~!!』 “遠くなったね……” 『……………』 その後もライブは続き 3曲を歌い切るとヒデのバンドはステージを降りた 『し~ちゃん、ヒデ様格好良かったね♪』 『そ、そうだね……』 『しずか、どうしたのぉ~このぉ~』 マキがニヤニヤしながらつっついてくる 『あんまりヒデ君が格好いいから魅とれちゃった??』 『………………』 そうじゃない 『ん?』 『?』 『ごめん、ちょっと帰るね……』 『え!?しずか!?なんで!?』 何故なのだろうか 『し~ちゃん!?どうしたの!?』 この場から早く立ち去りたかった―― 彼の余韻の残る会場から逃げ出したくなった でないと私――   <<<<<<君はいったい誰なの? 本当に誰なの?
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