Y‐1 愛の日のドラマ

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アパートのドアの前 『……………』 とりあえず いったん深呼吸する―― 『すぅ~~』 吸って…… 『はぁ~~』 吐いて…… 『……………』 人差し指を持ち上げて チャイムを鳴らす 『……………』 応答なし 『………しょうがないな』 合い鍵でドアを開ける 〈ガチャ――〉 すると―― 〈ガチッ〉 『!?』 一瞬にして血の気が引いた 半分ほど開いた扉に引っ掛かるドアチェーン 妻がドアチェーンを掛けることなどめったにない “マジかよ――!??” 〈ドクドクドク〉 高鳴る心拍音 もう一度ドアを開け確かめる 〈ガチャ――〉 〈ガチッ〉 『……………』 念のため再度 〈ガチャ――〉 〈ガチッ〉 『………………』 隙間から見える部屋の灯り 『お~~い……開けてくれよ~』 応答やはりなし 『俺が悪かったからさ~』 ここは仕方なく自らの否を主張しなければならない 『……………』 応答なく 『あ――……何だよ………もう………』 その場にへたりこんだ 『………冗談キツいぞ……』 ドアを背もたれにして膝を抱き寄せる 『………………』 右手にぶら下がる 【TSUTAYA】とコンビニのビニール袋 『……………』 ぼんやりと見つめてから 顔を膝にうずめる “……この先、これ以上やってけるのかな……” 不安にかられる 『………………』 〈カチャ〉 『…………!!』 ドアが少しだけ開いた 慌てて立ち上がる 『反省してる?』 少しだけ開いたドア越しに聞こえる妻の声 『………あぁ、遅くなってゴメン』 『………ホントにそう思ってる?』 『あぁ、思ってるよ』 『なんか、ちょっとめんどくさそう~』 『――だからもう!!謝ってるだろ!!』 思わず声を荒げてしまった 『……………』 『……………』 『あっゴメン、つい……』 『…………』 『…………』 『喧嘩はやめよぉ』 『ん??』 『――約束して』 『って、最初からそんなつもり俺はないし』 『今後の話の事、言ってるの』 『…………』 『…………』 『もちろん無いよ』 “つ~か大概の発端はそっちだろ” 心の中でツッコミを入れる 『………入ってよし!』 ドアが開く 『ただいま』 『おかえり』 ニッコリ笑う妻 どうやら機嫌が悪いわけではないようだ―― 玄関先で革靴を脱ぎながら 『今日は……なんかあったっけ?』 思い切って尋ねてみた 『うん、それはね――』 あるモノを指差す 『買ってきてくれたんだぁ~♪』 『あぁ~冷凍チャーハンか!早速食べようか、俺もう腹減っちゃって』 『違う!それ!』 少しムッとする妻 『あ、CDのほうか!』 【TSUTAYA】のビニール袋を手渡す 『頼まれたとおり、初回版だぞ――1枚しか残ってなかったからな』 『うわぁ~~ありがと♪欲しかったんだ~♪タケちゃん大好き♪』 『安っぽく聞こえるな~』 『早く聴こっか♪』 『ひょっとしてやっぱりホントに“この事”だったのか?』 『うん♪』 『はぁ~やれやれ』 肩の力が一気に抜けた 『てっきり俺、ゴルフクラブのコトかと―――』 口に出して 『ゴルフクラブ?』 『――あ゛』 すでにあとの祭り 『また買ったの?』 『付き合いだよ――仕方ないじゃん!』 『……………』 『……………』 『まぁ~~いっか』 『………へ??……』 『たまには息抜きしたいよね』 『え、あ、まぁ……』 『それより!早く聴こう♪CD~♪♪』 そう言い残し 部屋の奥へと姿を消す妻 『………奇跡だ………』 目の前で起こる信じがたい光景 『……恐るべし……原さんパワー……』
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