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アパートのドアの前
『……………』
とりあえず
いったん深呼吸する――
『すぅ~~』
吸って……
『はぁ~~』
吐いて……
『……………』
人差し指を持ち上げて
チャイムを鳴らす
『……………』
応答なし
『………しょうがないな』
合い鍵でドアを開ける
〈ガチャ――〉
すると――
〈ガチッ〉
『!?』
一瞬にして血の気が引いた
半分ほど開いた扉に引っ掛かるドアチェーン
妻がドアチェーンを掛けることなどめったにない
“マジかよ――!??”
〈ドクドクドク〉
高鳴る心拍音
もう一度ドアを開け確かめる
〈ガチャ――〉
〈ガチッ〉
『……………』
念のため再度
〈ガチャ――〉
〈ガチッ〉
『………………』
隙間から見える部屋の灯り
『お~~い……開けてくれよ~』
応答やはりなし
『俺が悪かったからさ~』
ここは仕方なく自らの否を主張しなければならない
『……………』
応答なく
『あ――……何だよ………もう………』
その場にへたりこんだ
『………冗談キツいぞ……』
ドアを背もたれにして膝を抱き寄せる
『………………』
右手にぶら下がる
【TSUTAYA】とコンビニのビニール袋
『……………』
ぼんやりと見つめてから
顔を膝にうずめる
“……この先、これ以上やってけるのかな……”
不安にかられる
『………………』
〈カチャ〉
『…………!!』
ドアが少しだけ開いた
慌てて立ち上がる
『反省してる?』
少しだけ開いたドア越しに聞こえる妻の声
『………あぁ、遅くなってゴメン』
『………ホントにそう思ってる?』
『あぁ、思ってるよ』
『なんか、ちょっとめんどくさそう~』
『――だからもう!!謝ってるだろ!!』
思わず声を荒げてしまった
『……………』
『……………』
『あっゴメン、つい……』
『…………』
『…………』
『喧嘩はやめよぉ』
『ん??』
『――約束して』
『って、最初からそんなつもり俺はないし』
『今後の話の事、言ってるの』
『…………』
『…………』
『もちろん無いよ』
“つ~か大概の発端はそっちだろ”
心の中でツッコミを入れる
『………入ってよし!』
ドアが開く
『ただいま』
『おかえり』
ニッコリ笑う妻
どうやら機嫌が悪いわけではないようだ――
玄関先で革靴を脱ぎながら
『今日は……なんかあったっけ?』
思い切って尋ねてみた
『うん、それはね――』
あるモノを指差す
『買ってきてくれたんだぁ~♪』
『あぁ~冷凍チャーハンか!早速食べようか、俺もう腹減っちゃって』
『違う!それ!』
少しムッとする妻
『あ、CDのほうか!』
【TSUTAYA】のビニール袋を手渡す
『頼まれたとおり、初回版だぞ――1枚しか残ってなかったからな』
『うわぁ~~ありがと♪欲しかったんだ~♪タケちゃん大好き♪』
『安っぽく聞こえるな~』
『早く聴こっか♪』
『ひょっとしてやっぱりホントに“この事”だったのか?』
『うん♪』
『はぁ~やれやれ』
肩の力が一気に抜けた
『てっきり俺、ゴルフクラブのコトかと―――』
口に出して
『ゴルフクラブ?』
『――あ゛』
すでにあとの祭り
『また買ったの?』
『付き合いだよ――仕方ないじゃん!』
『……………』
『……………』
『まぁ~~いっか』
『………へ??……』
『たまには息抜きしたいよね』
『え、あ、まぁ……』
『それより!早く聴こう♪CD~♪♪』
そう言い残し
部屋の奥へと姿を消す妻
『………奇跡だ………』
目の前で起こる信じがたい光景
『……恐るべし……原さんパワー……』
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