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Y-2 雨の日のドラマ
〈ザァ――――〉
雨音が激しさを増していた
あの夜
すべてはそこから
〈ガッシャーーン!!〉
始まった
〈ピーポーピーポー〉
『しっかりするんだ!意識を保つんだ!!』
救急車の車内で担架に寝かされた少年に必死で呼び掛ける
『どういった事故状況だったんでしょうか?』
テキパキとした口調で救急隊員が質問する
『あの――、交差点で直進していたトラックの後方にこの子のバイクがいて、確認もせずに右折してきた対抗車両が接触したんです――』
『転倒した時の状況は?』
『……………』
『分かりました』
『………この子、助かるんでしょうか?』
『………息も脈もあります………最善を尽くします』
『お願いします!!』
事故の時――
路面に散乱していた彼の持ち物――
その中のひとつ
1枚のCD
何故か、それだけ現場からとっさに持ってきた
現場にそのまま置いておくことが忍びなく感じられたのだろうか―――?
『……………』
そのCDを両手で握りしめながら彼の無事を祈っていた
病院の集中治療室――
手術は2時間にも及んだ
その間に彼の両親もやってきた
『あなたが息子を手当てしてくださったとか』
『いえ、そんなたいしたことは――ちょうど居合わせて、とにかく素人のできる限りの事をしただけで……』
『本当にありがとうございました』
深々とお辞儀をする両親
『今はとにかく――無事を祈りましょう――』
治療室のドアが開かれ
医師が現れる
『あの、息子は――!?』
『………命に別状はありません……』
『……良かった……』
『頭も強く打ちつけていますが……そちらの障害はおそらく無いようです……が、ただ……』
『………ただ?』
『……足を使って歩く生活は……今後望めないかもしれません』
『そ、そんな……』
『……………』
安堵のあとに訪れた残酷な現実に
冷静に向き合える者はその場にいなかった
それから
2ヶ月の時が流れる――
2010年6月25日
『元気にしてるかぁ~祐介君~~』
病室のドアを開けると
いつもの彼の顔と
個室の病室に、CDの優しいBGMが流れている
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