ジュラルミンの箱庭の向日葵に

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大嫌いだ。百目木舟人という男が。 敵国の兵士とどちらが嫌いかと聞かれれば迷うぐらいには大嫌いな男だ。司令部の気紛れのような辞令で乗り慣れた単座の零戦から、偵察機の瑞雲に搭乗するようになってひと月が過ぎた。瑞雲は複座機で、当然操縦席の後ろには偵察員のための席がある。フロートのついた瑞雲に未だに操縦の腕が慣れない。 重すぎるのだ、機体も、そして「配給で甘納豆もらったぞ!」と嬉し気に報告するこの男も。 ひとたび空に出てしまえば途端に世界に二人きりとなる。果てしなく広がる碧空では逃げる場所も隠れる場所もなかった。自分の他にはただ舟人しかいなかった。 向日葵の花のような満面の笑みが自分に向けられるたび、胸の奥底に小さな灯火がついた。散々避けても尚「ペアだから」と心を捧げるその笑顔で、魂に刻むように立てた誓いが日に日に揺らいでいく。 ああ、どうか。お前は憎い敵のままでいてくれ。俺が「修羅」のままでいられるように。
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